黄色い家 [Kindle]

著者 :
  • 中央公論新社
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感想・レビュー・書評

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  • 自分には見えていない社会の一部。
    ただ生きるということが、精神的な意味ではなく、置かれた環境によりこんなにつらいものなのか、と苦しくなりました。
    どうやって抜け出すのか、切り抜けるのか、向こうの世界に行けるのか、暗い沼のような場所で必死にもがく主人公の変貌に心が痛みました。

    人と人との繋がりの濃さが、自分の生活とは全く違う。

    余裕がないと嘆いても、この物語の世界に比べたらゆるい人生を送っている自分は、ものごとに、人に鈍感すぎやしないか?と感じました。

    • うさぎのしっぽさん
      >向こうの世界
      私も同じように感じました。
      同じ世界に生きているのにそこに壁があるような。
      生まれた時からそちらにいる人はなかなか抜け出せな...
      >向こうの世界
      私も同じように感じました。
      同じ世界に生きているのにそこに壁があるような。
      生まれた時からそちらにいる人はなかなか抜け出せないし
      かといってこちら側の人間だと思っている人も、
      ちょっとしたきっかけで簡単に向こう側に行ってしまうような。
      2024/05/04
  • 昭和から平成を振り返ることができる。俺も平成から令和を振り返りながら、強く生きる人を描ける人になりてえ。てかこの川上えみこさん綺麗すぎるやろ。

  • クライムサスペンスだけど、私は依存の物語、と読んだ。

    主人公の花が、お金のため、そして、友情のために犯罪に手を染めていく物語。

    花は、中学生のころに、「黄美子さん」に親切にしてもらう。
    そして、数年後に出会った友人である蘭と桃子と意気投合し、それまでになかったほど、明るく楽しい日々を過ごす。

    けれど、それは長くは続かない。
    きっと花が求めるラインが高すぎたというか、他人に期待しすぎるってこういうことなんだなって、胸が痛くなる作品でした。


    花は、ずっと友情や、愛情に依存していた。
    それをもっともらいたくて、黄美子さんたちと同居したりした。
    そして、みんなの気持ちが離れていくのに無意識下で気づいて焦っていたのだと思う。
    ヴィヴさんに、なぜ花だけがお金を稼ぐ必要があるのか、と問われたときに答えられなかったのが、すごく印象的だった。

    花は、ずっと依存していたのだと思う。友情に、黄美子さんに。
    正確に言うと、黄美子さんに親切にしてもらった中学時代の一か月間に、そして、一番蘭と桃子と仲が良かった数か月間に。
    ずっと同じことが続くわけじゃない。物事は移り変わる。みんなが同じ気持ちになれるのってきっと一瞬なんだ。みんなはきっとそのことがわかっていて、すぐに気持ちの切り替えがつく。でも花は違った。ずっと縋ってしまった。
    みんなの気持ちをつなぎとめるためにお金を使っていたというのは、確かに最後に桃子が言っていたことは正しかったのかもしれない。
    みんなの気持ちが離れる度、花は焦って、でもそれに気づかないふりをしていたんだと思う。
    黄美子さんについては、もしかしたらずっと、花に興味を持っていなかったんじゃないかなと思ってしまう。

    蘭や桃子が、気持ちが離れたことについて、もっと早く、花にちゃんと話していれば、きっとこんな犯罪に手を染めるようなことはなかったのだと思う。
    けれど蘭と桃子も自分自身で気づいていない。少なくとも、花が求めるレベルが高くて、そこに達していないのだということには気づいていない。
    気づいていたとしても、言い出すほどのことじゃないと思っただろうけれど。
    時間がたつにつれ、みんな引っ込みがつかなくなっていった。


    人は忘れる生き物。
    狂ってしまっても、治癒する。
    つらい記憶は、忘れる。
    けれど、輝かしい記憶は、忘れられない。

    狂ってしまった花も、20年を経ると、治癒していた。
    けれど、輝かしい記憶だけは、失うことができていなかった。

    もしかしたら、と思って、蘭や黄美子さんに会いに行く。映水さんに電話する。
    (黄美子さんを救わなきゃ、とか、黄美子さんのことを相談しなきゃ、と言っていたけど、本当は違うと思った)

    彼らにとって、すべて終わったことだった。
    だけれども花は、いつまでも、あのころの黄美子さんの記憶に縋ることになるのかもしれない。

    • うさぎのしっぽさん
      昔何かで、親からの愛情を幼少期に与えてもらっていない人は
      愛情不足を他人で埋めようとしてしまうけれど、
      結局家族でもない他人からの愛情という...
      昔何かで、親からの愛情を幼少期に与えてもらっていない人は
      愛情不足を他人で埋めようとしてしまうけれど、
      結局家族でもない他人からの愛情というのはそこまで強いものではなく
      求め続けてしまうが故に、上手くいかないことが多い、という話を聞きました。
      さつきさんの感想を読んで、花ってそうだったのかなぁということを
      ふと思い出してついコメントしたくなりました。
      2024/05/04
  • 途中、苦しくなって置いてしまっていたけど、覚悟を決めて一気に後半を読了。 
    とにかく、花の変わりようが痛々しい。
    人は追い詰められると、様々な幸や不幸が重なって、自分でも思いもよらない行動をしてしまうのかもしれない。
    そして花の現状は救われていない。
    でも、最後にかすかな希望が見えるような気がするのは何故だろう。

  • ★3.7

  • 月20冊程度本を読む私だが、2冊続けて小説を読んだのは初めてではないか。

    ビジネス本は斜め読みでも得るところはあるが、

    小説はそうはいかない。2冊で1週間以上かかってしまった。

    しかしそれぞれ読み応えのあるものだった。今回の黄色い家は500ページ。

    内容も深い。



    敢えて乱暴に一言でいえば、貧困女性の普通でない生活を描いた小説、だろうか。

    水商売の母親を持つ主人公花は、その母が恋人と家を空けたときに黄美子という

    女性の世話になる。風水を信じ、ラッキーカラーは黄色。

    小学生の花には素敵な存在だった。

    その黄美子が居抜きでスナックを始めることになり、花は手伝う。

    当時18歳。学校には行かない。

    スナックは思いのほかうまくいって人手が足りなくなり、客が取れないキャバ嬢、

    客が連れてきた高校生を仲間に入れる。家を借り、4人で暮らすようになる。

    しかしそのスナックが焼け、スナック再開のため、4人の生活のため、

    「出し子」を始める。ぼんやりした3人と違いしっかり考える花は、次第に

    追い詰められていく。そして破綻がやってくる、、、



    あらすじを書いてもあまり意味がないな。

    貧困で、教養のない女性たちの奇妙な集団生活。

    なぜか主人公花だけはその中でものを考えるようになる。

    もとは黄美子がママのはずだったのが、共同生活のリーダーは花になる。

    どうやって金を得るか、生きていくかに必死になる。



    それが出し子ではなあ。。

    足を洗った後は安い時給で働くようになる。

    そういえば先ほどニュースで大谷10年1000億という話があった。

    かけ離れた世界。時給1000円と、時給数百万、かな?意味がない、、、

    貧すれば鈍す。つらすぎる生活。

    教養を身につけねば。

  • お金がないと考えられることが少なくなって生きる世界が狭まってしまうのか。

  • じりじりと読んでいた本作。
    ようやく読み切った。

    中でも黄美子さんの人物像が絶妙だなと。
    こういう人は本当にいる。
    けれど、私たちが普通に社会の中で社会人たる中で出会うことは稀である。
    彼らは真っ当な社会に存在する可能性が少しばかり低いから。
    けれど、ドキュメンタリー等の中には必ずいる。

    そして、もっと大きな括りで言えば、
    『何も考えない人達』というのは沢山いる。
    私自身が、考えすぎるくらい日々悶々と暮らしているので、
    この事実に気づいた時はちょっとした衝撃であった。
    もちろん、伴侶である旦那も、所謂『考えない』側の人間である。
    蘭や桃子のような。
    ただ目の前のことをやり過ごして生きていこうとしている人々。

    なので、花が2人と言い合うシーンはめちゃくちゃ花側に深く共感してしまった。
    この世の中は深く物事を考えれば考えるほど、損するようにできている。
    1人の人間の人生としては、深く考えることは必要だし、それこそが人間の矜持であるが、
    社会生活を営む上で、この能力はただ邪魔なだけなのではと思うことがある。
    もしかしたら不幸なことなのでは、と。

    ただ、この小説の最後がそうであったように、
    考えすぎる人々は往々にして黄美子さんのような人間に救われているのも確かだ。
    考えすぎる人間は、彼女のようにただ波に身を任せている人に癒されるところがある。
    おそらく、自分にはない感覚であるからだろう。
    この辺りが、人間の面白いところだと思う。

    後は、ひとつの事件から始まった物語が
    長い回想を経て全く違う事件となるところが良かった。
    これも現実にとても多く見られる現象で、
    そのことに、常々憤りを感じているから。

    物事を深く考えすぎて疲れている人達にとって
    最後は涙なしでは読めないだろう小説だった。

    花の憤りや、怒り、悲しみ、無力感、その全てを自分のことのように感じ取ることができた。

  • お金がわりと好きである。
    いや、お金が好きというよりは「お金があることで得られる安心感や楽しい気持ちやワクワク感が好き」なのか。

    お金で何を買おうか。
    誰でも「1億円当たったら…」の想像(妄想)はするものだと思うので、たくさんお金があるとハッピーな気持ちになりそう、というのは多くの人が共感するところなのだろう。

    本書の初めに報じられるある「事件」。
    この事件で被告となった人物と、主人公はかつて生活を共にしていた。
    物語はその「共にする生活」をを中心に進む。

    「事件」は、実際に報じられセンセーショナルに取り上げられた類いのものに似ていて、私たちはその報道された内容だけを見て「何てひどいことを」「被害者が気の毒だ」と断じ、論じる。

    主人公の生い立ちや生活は、けっこう不幸だ。
    いや、不幸比べは意味がなく、いろんな環境の「不幸な人」がこの物語には登場する。
    お金があってきれいに着飾れて若くて美しくて愛してくれる人がいても、それは本人の主観的な幸福感と等価とは限らない。

    「こんなに恵まれているのに不幸だなんて」
    「世界にはもっと不幸な子どもたちが」

    みたいなことを、かつて私たちは(たぶん)言われて育っただろう。
    貧しく、生活が安定しないことそのものが不幸だと大人たちは考えていたようだし、確かに貧しくもなく生活が不安定でもないほうがいいに越したことはないのだけれど。

    主人公は、日々の暮らしにも事欠く毎日の中で実母の知り合いである女性のもとに逃げ出し、途中で出会った"仲間"たちと生活を共にすることになる。
    頑張っても働いても努力しても、積み上げたものが壊れていく。ある時は母の愛人の手により。ある時は"加害者"を責めることの躊躇われる火災によって。そして、再び母を食い物にする狡賢い人々のために。

    あたかも賽の河原のように。
    積んでは壊されるものを元に戻すために主人公はただ働く。積むことがいつしか目的になり、危ない橋を渡ることも厭わなくなった果てに最大の破局が来るのだ。
    積むために巻き込んだ"仲間"を、目端が利いて後先考える力があるゆえに結果的に支配する形になってしまった主人公は被害者でもあり、もしかして加害者でもある。

    かりそめの"ファミリー"が跡形なく消え去ったあと、主人公は紆余曲折ののち平穏な生活をついに手に入れる。そして結末。

    幸不幸は測るものなのか。
    比べるものなのか。

    そんなことを、この物語は根底から揺るがす。
    キレイゴトも、われわれの俗的な価値観倫理観も容赦なくぶち壊す。
    通り一遍のキレイな「感想文」を寄せ付けないパワー。
    そう。「考えさせられる」なんて感想を書いたら主人公たちに鼻で笑われるに違いない。

    それにしても1億円の使い道、なかなか思いつかないものですね。みみっちい妄想にしかならないところが悲しい。

    本書は、東畑開人先生がセミナーで紹介されていた一冊だ。先生、まったく一筋縄では済まない本をリコメンドされるよなーと「正欲」の解説(も、東畑先生が書いている)を読みながらため息をつくのだった。

  • 「山中由貴賞」になっていたことから手に取った作品。
    確かに面白くてかなり一気読みしてしまった。丁度私が若き日を過ごした時代と重なっており描写の部分でも共感できた。主人公の花の懸命さが時に空回りしたりしながらもとにかく必死に生きている感覚が伝わってきた。
    最後の年齢を重ねた後の部分をしみじみと読みました。

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著者プロフィール

大阪府生まれ。2007年、デビュー小説『わたくし率イン 歯ー、または世界』で第1回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。2008年、『乳と卵』で第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞受賞。2010年、『ヘヴン』で平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第20回紫式部文学賞受賞。2013年、詩集『水瓶』で第43回高見順賞受賞。短編集『愛の夢とか』で第49回谷崎潤一郎賞受賞。2016年、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞受賞。「マリーの愛の証明」にてGranta Best of Young Japanese Novelists 2016に選出。2019年、長編『夏物語』で第73回毎日出版文化賞受賞。他に『すべて真夜中の恋人たち』や村上春樹との共著『みみずくは黄昏に飛びたつ』など著書多数。その作品は世界40カ国以上で刊行されている。

「2021年 『水瓶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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