「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか (ブルーバックス) [Kindle]

制作 : 林(高木)朗子  加藤忠史 
  • 講談社
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感想・レビュー・書評

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  • 今、困っていることを解決したくて読みましたが、見当たりませんでした。

  • 統合失調症やうつ、PTSDや自閉スペクトラム症などの心の病はレントゲンに映らないし、血液検査をしても測定できない。客観的な指標がなく、患者本人にしか自覚できない点が難しい。が、シナプスやゲノムの研究、fMRIやiPS細胞などの新技術を使った研究が進んでおり、心の病が医師に「見える」時代が近づきつつあるようだ。医学の基本的な知識は必要だけれど、最先端の研究に触れられて、科学の読み物として面白かった。

    章ごとに、それぞれの分野の先端の研究者が登場する。複数の筆者がいると同じ本の中でも書き口が違ったり、難しすぎたり易しすぎたりして読みにくいものだが、本書は研究者へのインタビューを元に一人のサイエンスライターが執筆しているそうで、混乱せずに読めた。良書。

  • 発達障害や精神疾患などを研究する、最前線の脳科学者達による執筆。詳細な専門用語については一読しただけでは消化不良なものの、全体として、医学が発達すれば様々な病気も症状も「治る」「発症させない」時代がくるのだという、希望や意欲が伝わってくる。

  • 内容は精神疾患に関する脳神経科学の知見を一般向けにわかりやすくまとめたものです。「脳科学」という日和った言葉は使わないでほしかったと思うくらい学術的で専門的な内容でした。久々に読みごたえのあるブルーバックスでした。

  • ふむ

  • ASDとADHDと診断されてるのですが症状に生きづらさを感じたことがなく
    同じ症状の他の皆さんが一体どう感じてるのかが知りたい

  • 医師をはじめ、脳神経、生物学の専門家により「心の病」について現在わかっていることを説明した本。BLUE BACKSらしく科学的かつ論理的に現状を正確に述べている。「心の病」との格闘ぶりが、よく理解できた。

    「統合失調症は、精神疾患の中でも遺伝要因が大きいようです(一卵性双生児の一方が統合失調症を発症した場合、もう一方も50~60%の確率で統合失調症を発症する)」p28
    「(脳疾患には、神経変性疾患と精神疾患がある)アルツハイマー型認知症では、多数の神経細胞が細胞死を起こして脳の顕著な萎縮が見られます。それが神経変性疾患です。当然のことながら、脳内の情報処理を担う神経細胞が死んでしまうので、記憶や認知などいろいろな脳機能に障害が出てしまいます。一方、脳にそうした顕著な萎縮、神経細胞死が見られないのが神経疾患です。シナプスや神経細胞のはたらき方の変化のほかに、神経回路の配線の変化が考えられます。脳の領域間を結ぶ配線の数が少なかったり多すぎたり、間違った相手に配線されたりする変化です。そのような配線の異常があっても、脳に明らかな萎縮などの「見える病変」は認められないでしょう」p57
    「きわめて複雑な脳の神経回路の配線を調べて、脳の機能を理解することはとても難しく、結果としてそのような研究は遅れていました。このような神経回路の配線地図をコネクトームといいます(コネクトーム研究により統合失調症、自閉スペクトラム症(ASD)などの解明を目指している)」p60
    「うつ病は、統合失調症や双極性障害などに比べて遺伝要因よりも環境要因に強く影響するという調査報告があります。精神的ストレスや身体的ストレスなどの環境要因によって、誰もが発症する可能性がある精神疾患だと言えるでしょう」p81
    「うつ病患者は、海馬と前頭前野の一部(内側前頭前野)の体積が縮小しているという報告があります。内側前頭前野は、扁桃体を制御しているといわれています。扁桃体は、敵に襲われるなど怖い出来事があると活性化して、敵と戦う、あるいは逃走するという適切な対処を促します」p85
    「(うつは慢性ストレスで起こる)短期間の急性ストレスではうつ様行動を示しません。1日10分のいじめが10日間続くといった慢性ストレスによって初めてうつ様行動が現れます」p88
    「ヒトゲノム(遺伝情報)は約30億個の塩基で構成され、たんぱく質をつくる情報が書かれた遺伝子が2万個超含まれています」p110
    「ヒトは、父と母からそれぞれ1コピーずつ、2セットのゲノムを受け継ぎます。15番染色体の一部が1コピーに欠失すると統合失調症に、3コピーに重複するとASD(自閉スペクトラム症)を発症するリスクが高まることが報告されています」p118
    「父親の年齢が高くなるほど、精子のゲノムに変異が入る確率が高まります。ASDの発症頻度が増えている原因として、晩婚化の影響も指摘されています」p119
    「(がんとASDで共通した特定の遺伝子群の異常が現れる)がんや発達障害、精神疾患、生活習慣病など、さまざまな疾患が炎症と関係していることがわかってきました」p126
    「PTSDの治療には、医師が患者と一対一で面接して、恐怖体験を思い出すことを1回約90分、数か月に分けて十数回繰り返す「暴露療法(エクスポージャー療法)」が行われています」p165
    「躁状態とうつ状態を繰り返す双極性障害(躁うつ病)は、100人に1人ほどの高い割合で発症する精神疾患です」p185
    「ASD(自閉スペクトラム症)の人たちは、実際の人間よりもロボットとコミュニケーションが取りやすいという報告が多数発表されている」p235
    「他者の視点に立てるかどうかが、ASDの重要な診断基準の一つになっています。他者の視点に立てないことが、社会性やコミュニケーション能力の発達に遅れが出る原因だと指摘する研究者もいます」p241
    「神経変性疾患のパーキンソン病では神経伝達物質のドーパミンのはたらきが弱まり、精神疾患の統合失調症ではドーパミンのはたらきが強まります」p250
    「アルツハイマー型認知症ではまず、脳内の神経細胞の外側にアミロイドβというタンパク質の断片が蓄積し、やがて神経細胞の内部にタウというタンパク質が蓄積します。それによって神経細胞の機能低下や細胞死が起き、認知症が発症するという経過をたどります」p253
    「パーキンソン病は、αーシヌクレインというタンパク質が脳内の神経細胞に蓄積します。それにより、ドーパミンをつくる神経細胞が大量に細胞死を起こして症状が現れます」p256
    「体の疾患に効く薬が脳の疾患では効かないケースが多く見られます。脳の血管には「血液脳関門」と呼ばれる仕組みがあるため、薬がその関門を通過して脳へ入っていけないことが主な原因の一つです」p262

  • 「したがって、グルタミン酸やGABAを体外から摂取することで脳機能をコントロールできそうな気もします。しかし、じつは、体外からこれらを摂取しても脳へは到達しないことが分かっています。」

    「私たちの幸福感を構成する物質としてしばしば登場するドーパミン、セロトニン、オキシトシンも神経伝達物質で、神経発火の起こりやすさを調整するので神経修飾物質とも呼ばれます。」

    「喫煙すると頭がすっきりしたりイライラが軽減したりします。その原因成分であるニコチンも神経伝達物質で、脳内のニコチン性アセチルコリン受容体に結合し、ドーパミン神経細胞を介して快楽物質であるドーパミンの分泌を促すため、快感や覚醒作用が生じるようです。」

    「私たちの幸福感を構成する物質としてしばしば登場するドーパミン、セロトニン、オキシトシンも神経伝達物質で、神経発火の起こりやすさを調整するので神経修飾物質とも呼ばれます。」

    「喫煙すると頭がすっきりしたりイライラが軽減したりします。その原因成分であるニコチンも神経伝達物質で、脳内のニコチン性アセチルコリン受容体に結合し、ドーパミン神経細胞を介して快楽物質であるドーパミンの分泌を促すため、快感や覚醒作用が生じるようです。」

    「多くの興奮性シナプスは、スパインと呼ばれる樹状突起上の微細な構造物上にシナプスを形成します(」

    「統合失調症の発症に関係する遺伝子は、シナプスではたらくものが多く、中でもスパインではたらく遺伝子が多いのです。また、統合失調症の患者さんの脳を調べると、スパインの数が少ないという報告があります。」

    「本来ならば、多数の神経細胞から同時に信号入力がないと発火しないという民主的な仕組みなのに、統合失調症では、スパインの密度や大きさが変わることで、少数の神経細胞からの信号入力だけで発火してしまうという独裁主義に変化して、それが神経回路の調和を乱しているのではないかと私たちは考えています。これは非常に新しい仮説です。」

    「たとえば、黒い猫が目の前を歩いているとすると、黒に反応して発火する神経細胞群、猫の形に反応して発火する神経細胞群、物が動いているという事象に反応して発火する神経細胞群というように、多くの神経細胞群が協調して作用することで、「黒い猫が歩いている」という現象を認知できるのです。  もし脳内の発火のタイミングがずれてしまったり、さらに別の記憶、たとえばFBIが容疑者を追跡しているドラマの記憶を保持している神経細胞群が同期発火して同じ回路の中で機能的につながってしまったりしたならば、「今、黒い猫が目の前を通過したのは、FBIが自分を追跡しているからである」と強固に確信する妄想知覚が起こるかもしれません。」

    「統合失調症の多くの患者さんで、電話番号を一時的に覚えるような作業記憶に障害が現れます。電話番号を覚えるときにも、特定の数字に反応する神経細胞群が同期して発火する必要があります。ところが、少数の神経細胞からの信号入力の影響が大きくなりすぎると、発火のタイミングが変わってしまうと考えられます。入力の影響が大きくなりすぎた神経細胞だけが単独で発火して、同期のタイミングからずれてしまうのです。これらは、あくまでもまだ仮説の段階で、これから科学的に検証していく必要があります。」

    「うつ病の患者さんで縮小が見られる内側前頭前野は、扁桃体を制御しているといわれています。扁桃体は、敵に襲われるなど怖い出来事があると活性化して、敵と戦う、あるいは逃走するという適切な対処を促します。そのような恐怖体験を記憶する役割も扁桃体にはあります。  危険な状況では扁桃体が活性化して適切な行動を取る必要がありますが、理由もないのに日常的に扁桃体が活性化していると、理由がないのに不安感が続いたり、目の前の出来事から逃げ出したりする無気力な行動(うつ様行動)が現れます。そのような扁桃体の不必要な活性化を内側前頭前野が抑制しています。しかし、内側前頭前野の神経細胞の樹状突起が退縮してしまうと、扁桃体を抑制するはたらきが弱まってしまい、うつ様行動が現れるのでしょう。」

    「うつ病の患者さんの血液を調べると、体の炎症に関わる免疫細胞の一種である好中球と単球が増加しているという報告が以前からあります。うつ病の患者さんでは、脳だけでなく、体にも炎症が起きているのです。」

    「普通は、好中球や単球も関門を通過できず、脳に直接作用することはありません。しかし体の炎症が進むと、関門の防御機能が弱まり、炎症を引き起こす免疫細胞や免疫系分子が脳に作用して炎症を起こすことが、さまざまな研究者による動物実験で示唆されています。」

    「島皮質は、味覚や嗅覚、触覚などの感覚情報が集まり統合される、感覚統合の中枢です。また、内臓など体内部の感覚や他者への共感、情動(感情)にも関係しているといわれています。島皮質は、相手に関する感覚情報を統合して、過去の記憶や感情などと照合し、相手に近づいたり避けたりする社会性に重要なはたらきをしていると指摘されています。島皮質が社会性を実現している神経回路「社会性の神経回路」の中枢を占めている可能性があるのです。じつは、その島皮質の構造や機能が、ASDや統合失調症を含む精神疾患の患者さんの脳では変化していることが報告されています。」

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著者プロフィール

理化学研究所 脳神経科学研究センター 多階層精神疾患研究チーム チームリーダー。1999年、群馬大学医学部医学科卒業。その後、同大学大学院医学系研究科に入学し、2005年に修了。博士(医学)。その後、ジョンズ・ホプキンズ大学、東京大学などを経て、2019年より現職。新学術領域「マルチスケール精神病態の構成的理解」(2018~2022年度)の代表を務める。

「2023年 『「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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