言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか (中公新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 非常に面白かった。
    「言語の本質」というこれ以上ないくらいデカいテーマをタイトルにぶち上げた新書。どこまでとっつきにくいものか…と想像していたら、最初に出てきたのはオノマトペの話。あの、“くるくる”とか“ドキドキ”とかのオノマトペ。それが言語の本質にどんな関係が?と思って読み進めてみたら、なるほど言語の本質とはオノマトペにあったのか、と筆者たちの主張に思わず膝を打ちたくなった。

    とにかく筆が上手。
    まずオノマトペが言語の本質?とびっくりさせて(結論をまず言う)、そこからその主張を裏付ける根拠を肉付けしていく。まるでミステリ小説のように次の展開が気になりどんどん読み進めてしまった。
    ベストセラーになったのも納得。

  • この本、売れているようだ。
    中公新書の(だから)、こんなかための本が売れるなんて、ちょっと言い方は悪いけど、まだまだ捨てたもんじゃないと思った。
    同時に、またまた言い方は悪いけど、明らかに最悪の時期を迎えつつある日本社会で本書が売れるという現象に戸惑う。いや、最悪だからこそ?と故・橋本治なら言うかもしれない。

    さて、本書はオノマトペ(擬音語・擬態語)研究から出発する。日本語はわりとオノマトペの豊富な言語だ。逆に英語は、オノマトペは副詞的に用いられずすぐに動詞化されるため、種類は少ない。

    いずれにしても筆者たちは「記号接地問題」つまり、言語というのはその根っこに身体的経験による支えがなければ意味を理解できないのではないか問題という観点から、オノマトペに可能性を見る。

    つまり、オノマトペの持つアイコン性がアナログな身体とデジタルな言語の橋渡しをするのではないかという仮説に立つのだ。

    言語学者のソシュールは、言語は差異の体系であり、記号と意味には恣意的な関係しかないと喝破したが、しかしそのように抽象的に進化する以前の言語はいったいどのように生まれるのか.....

    本書は、子どもの言語習得のプロセスに注目しながら、言語が抽象化されていく以前の段階を探る。
    そこから見えてくるのは、人間という生き物は過剰に「一般化しすぎな動物」であるということ。そのさい、「アブダクション」という推論エンジンを用いるほぼ唯一の動物であるということ。

    (私はずっと、昆虫を始めとする動物は人間よりも論理的な生き物だという表現を繰り返してきたが、これはより正確に言えば、「演繹的」だということを確認した。
    「帰納的」推論を行えるようになればもうちょっと高等。チンパンジーとか。)

    このアブダクションにより、人間はどんどんと言語を抽象化していける。するとオノマトペはかえって不便になってきて、言語の細分化、差異化が行われるようになる。

    もうひとつ、今気がついたが、人間は何にでも「類似性」を見出してしまう生き物でもある。見立てが上手、というか、見立てずにはいられないのだ。
    おそらく、哲学的な抽象概念も、人間のこの性質によって生み出されたに違いない。

    オノマトペは、おそらく相手がいるからこそ、相手に何かを伝えたいからこそおのずと生み出された言語だと思うと感慨がわく。
    その「相手」というのはおそらく、ひとつには自分の子どもだろう。音真似によって、快・不快や、欲求を伝えてほしいがために、こちらがオノマトペによって子どもの感情を表現してみせる。本書を読みながら、自分が本能的に行なっていたことはそういうことだったのか!といろいろ納得のいくところがあった。

  • AIが人々の問いかけに応える時代。
    AIは、本当に自らが導き出した答えを「理解している」のだろうか?
    (※記号設置問題)


    オノマトペの研究に端を発した2人の研究者が、言語の本質に迫る本。1人は言語学の視点から、1人は認知言語学や言語学習の視点から。

    私は、言語学も、認知言語学も全然知らない門外漢ですが、生まれてこのかた、ずっと「日本語」を話してきた「日本語母語話者」。
    コロコロ、とか、ゴロゴロ、とか、ぴえん、とか、ぱおん、とか、昔からあるオノマトペも、最近できたオノマトペも、なんとなく実感できる。

    でも、なぜ?
    言語の単語には「恣意性」があるというけど、本当?
    子どもたちはどうやって言語を習得しているの?
    人間以外の動物は言語を持たないのはなぜ?

    オノマトペを発端に、言語っていったいなに?
    どういうことなの?

    という疑問に、いろいろな刺激をくれる本でした。




    この本を手に取ったきっかけは、Podcast「ゆる言語学ラジオ」に、著者の1人である今井むつみさんが出演して研究の話をしてくれていたから。

    なんとなく分かっているつもりだった「自分の言語・言葉」に、「恣意性」だとか「アブダクション推論」だとか、耳馴染みのない概念を導入して発展させてくれる、頼もしい情報源。

    新しい世界に誘われてしまいました。

    すべてを理解することはできないけれど、さまざまな気づきを、私の脳内に残してくれました。

  • オノマトペから見る言語間比較から、記号設置問題、ChatGPT、ブーストラッピングサイクル、アブダクション推論と、これまで一考だにしたことのない言葉、推論の流れに、素人の脳がグイングイン揺さぶられる気持ちいい一冊。
    頭のよさそうな本を読んで満足したいという、知的好奇心はなくはないが、私のような知的弱者には最高の一冊

  • オノマトペを足がかりに「記号接地問題」に取り組み、やがて「アブダクション推論」という概念を用いて、赤ちゃんがいかにして言語を習得していくか、いかにしてヒトが言語を持つにいたったかを解明していく論考。丁寧に明晰に論理を展開していくその筆致は、清々しく美しく、感動的だ。読んでよかった!

  • 認知科学、言語心理学、発達心理学の専門家である今井氏と認知•心理言語学の専門家の秋田氏の共著。
    2人が議論してきた時の思考のラリーを辿っているようで非常に面白い。小説は一気に読めるが、新書はなかなか読み進まないことが多いのだが、この本は一気に読み終えた。これからも繰り返し読みであろう良書。
    様々な実験を繰り返しながら、「オノマトペ」の持つアイコン性に着目し、そこからの体系化という進化。また、記号設置問題も、オノマトペを触媒にして、人間が知覚経験から知識を創造し、成長させていくという彼らの仮説が非常に説得力があり、時間も忘れて引き込まれた。
    来年の高校入試はこの本からの出典が多くなることが予想される。子供に読ませたい。

  • オノマトペや音象徴、子どもの言語習得におけるアブダクション(推論)の分析や考察を中心に、言語というものがどのようなものかという壮大な問いに答える一冊。
    難しい内容も含み決して読みやすい本ではないが、研究事例が豊富でそれを理解するための例も多く載っていて、たいへん読み応えがあった。

  • 「ブートストラッピング・サイクル」で、人間の子どもの学習能力を説明したところは、説得力があり、この気づきは感動的なのではとさえ思えた。
    このサイクルを駆動する「アブダクション推論」の説明も、なるほどと納得でき、チンパンジーのアイと人間の子どもの比較は興味深く分かりやすかった。
    オノマトペから始まり、言語の起源や進化、習得にまで話しが及び、コンパクトな新書としてはかなり内容の詰まった読み応えのある本だと思う。

  • 言語学関係の本、ちょこちょこ読んできたけど、こんなに感動したのは初めて。
    いちばんおおっ!と思ったのはヒト乳児とチンパンジーの実験のくだり、私も著者に大きく賛成したい。ヒトは進化の過程でアブダクション推論をより強固なものにし、それが言語の本質なのだと思う。

    ありとあらゆる知識がこうやって世界を形作っていくんだなあ、ああ人生って楽しいなあ。

    ⭐︎人に話す時用メモ
    なぜヒトだけが言語を持つのか?
    非論理的なアブダクション推論(A→XならばX→A)とブートストラッピング(自律的な知識学習)こそが言語の本質

  • 大変学びの多い本だった。言語という抽象的でシステマティックな概念の獲得のために、子どもは身体的な表現に近いオノマトペを介することで音と意味の関連を理解していく。また、ヒトはA→Xを学習するとX→Aと類推することができる。これは本当ならば非論理的だが効率的に知識を増やすことができるもので、ヒト以外の動物にはできないらしい(チンパンジーに1体例外あり)。記号設置問題の例外として身体を持たずに意味を認識し学習することのできるAI(ChatGPT)の台頭等、どれも興味深い。ゆる言語学ラジオの投書が微笑ましい。

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著者プロフィール

今井 むつみ(いまい・むつみ):1989年慶應義塾大学社会学研究科後期博士課程修了。1994年ノースウエスタン大学心理学博士。慶應義塾大学環境情報学部教授。専門は認知科学、言語心理学、発達心理学。著書に、『親子で育てる ことば力と思考力』(筑摩書房)、『言葉をおぼえるしくみ』(共著、ちくま学芸文庫)、『ことばと思考』『英語独習法』(ともに岩波新書)、『言語の本質』(共著、中公新書)などがある。

「2024年 『ことばの学習のパラドックス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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