イーロン・マスク 下 (文春e-book) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • この評伝の素晴らしさは、未だ元気なイーロン・マスクが著者を信頼し、一切何も見せなくていいし、何を書いてもいいとフリーパスを与えたことだろう。付き合うのに小難しいマスクについて何も忖度なく書いているのはよめばわかろうもの。現時点で十分にマスクを描ききっていると思わせる。

  • おもしれぇええええええええええええw

    いよいよTwitter買収の件へ。
    当時新聞で大量解雇の報道が有ったのは知っていましたが、そりゃあそうなりますわな。おしゃれな建物に無料の食事、ほとんど通勤しない社員たち、あのマスクさんから見たら生温過ぎて我慢ならないのでしょう。1人あたりの生産性も悪く、あゝ私もTwitterへ就職したい・・・ではなく、クビ、クビ、クビの連続技、マスクが悪魔モードの入ると更に加速して、わぁ~クビの宝石箱や~

    スペースX、テスラと同じ、普通に考えたら無理であろう事を目標にして、それを否定する社員はクビ、やる気を見せない写真はクビ、しかし彼が先頭に立ってやり遂げてしまう(全部ではなくて)、もう何て人ですか、マスクさんは。
    Twitter社も彼が買収してから一時、かなりヤバい時期があったみたいですが今はどうでしょうか、コミュニティーノートも出来て、面白くなっているんではないでしょうか。

    マスクさんの人間性は無茶苦茶ですが、世界を変えていく上で必要悪?悪ではないか?だと思います。これを読んだ限りはね。
    とは言え、現実『ワイは日本のイーロン・マスクやで!』とド勘違いして、社員に暴言吐くは、無茶ぶりするわ、自分に反論したら即クビにするわで、偶々その事業が大当たりして自分のやって来たは間違いなかったと、そのまま一直線に進むとビッグなモーターになりますのでご注意ください。マスクさんは偶々ですので。

    ただこういう経営者としての考えは有りだなと、色々と考えさせられる事はありました。しょうもない自己啓発本を読んで宗教のように必死で唱えるよりも余程意味が有ると。某稲盛さんもあんな聖人君主的なこと言っていながら愛人おりましたし(噂w)。
    素晴らしいビジネス書でした。

  • イーロン・マスクの後編。
    前編のテスラとスペースXですでにお腹いっぱいだったのに、
    更に出てきたツイッター。
    その前に感心したのが、スペースXの軽量化のために、とことん常識を疑うマスクの
    姿勢。これは素晴らしい。
    常識も技術進歩と共に変わるはずなのに、囚われてしまうのが普通の人。
    マスクは普通じゃない。壊す。
    そして、ビル・ゲイツとの会話。
    マスクに慈善事業を薦めるゲイツが、スペースXを空売りしていたのは笑った。
    そしてそれを「信じられん」と怒るマスク。

    その話の後がツイッター。現X。
    スペースXもテスラも、地球の未来のための活動。
    ツイッターは?マスクが好きなだけ?いや、自由な言論空間を残すため、
    地球の文明のためとマスク。
    結局買収して従業員を8割切って、制限を外して、でもプログラムで抑えるところは
    しっかり抑えて、、、少数精鋭でどんどんシステムを変えて、Xはしっかり回る。
    いかに現状に甘んじる怠惰な人間が大半か、ということ。
    でも全員マスクみたいだったらくたびれ果てて人類は滅びるかも。
    バランスが難しい。
    マスクはアンドロイド、AIにも危機感を持つ。人に役立つAIをどうするか。
    そのために会社を作る。

    家庭的には様々な問題を持つマスクだが、彼の動きは止まらない。
    この本はまだまだ続きがあるってことだ。

  • オーディブルはウォルター・アイザックソン『イーロン・マスク 下巻』を今朝から聞き始める。

    火星に行くには金がかかる。その原資をどこで稼ぐか。

    「インターネットの市場規模は年に1兆ドルというところです。その3%を獲得できれば、300億ドルと、NASAの予算以上になります。だからスターリンクを立ち上げ、火星に行く資金の足しにしようと思ったわけです」「スペースXでは、あらゆることを火星に行くというレンズを通して考え、決断するのです」

    低レイテンシー実現のために、一般的な静止衛星軌道(高度3500万メートル)のはるか下、カバレッジの低い高度約55万メートルの低軌道に大量の(最終目標は4万基)の小型通信衛星を打ち上げる。安上がりで技術的ハードルが低く、現実的な解決策だ。

    「2011年のスペースシャトル退役で、米国は、能力、意志、想像力を欠いた時代に突入する。2世代前に月ミッションを9回も成功させた国にあえるまじきことだ。最後のシャトルミッションから10年近くたっても、人をまた宇宙に送り出せていない。国際宇宙ステーションの往復はロシアのロケットに頼らなければならない始末だ。だが、2020年、スペースXがその状況を変える。」

    技術は永遠に進化するものではない。金が集まらなければ開発は停滞し、枯れるどころか、進化はストップしてしまう。2020年、スペースXは軌道まで人を送り届けた初の民間企業に名乗りを上げ、米国をふたたび宇宙開発の最前線へと押し出した。それ自体は快挙だが、10年前に当たり前にやっていた技術に、ようやく追いついたにすぎない。それはやはり技術的停滞と呼ぶにふさわしい。マスク本人もそう考えている。

    マスクはキラキラネームどころじゃない機械のような名前「X Æ A-12(エックス・アッシュ・エイ・トゥウェルヴ)」をわが子につけている。やっぱりどこかのネジが外れてるんだろうか。だが、子どもが嫌いなわけでは決してない。トランスジェンダーの娘、ジェナとは折り合いが悪く、「金持ちは全員悪人だ」と考える筋金入りのコミュニストになった彼女との距離を縮めようと、豪華な自宅を全部売り払い、他人の家に間借りして暮らすようになったほど。世界一のビリオネアなのに。

    オーディブルはウォルター・アイザックソン『イーロン・マスク 下巻』の続き。

    「2021年7月にブランソンとベゾスが相次いで宇宙に行ったことから、マスクも後を追うのか、自身を宇宙に送り出す3人目のビリオネアになるのかとずいぶん取り沙汰された。マスクは注目の的になりたがるし、リスキーな冒険が大好きだが、自身が宇宙に行くことはまったく考えていない。自分のミッションは人類のためであって自身のためではないというのだ。ええかっこしいにも聞こえるが、事実だ。ロケットがビリオネアのおもちゃだと思われてしまうと、ふつうの人の宇宙旅行に変な色が付きかねない。」

    リスクについての考え方①:
    リスクをどこまで許容するかは個人の自由意思に委ねるべきだ。この発想が、イノベーションを促進するうえで、思いの外重要なのかもしれないと思わされるケース。
    「ひとつ、お伝えしておきたいリスクがあります」「今回は、いつもの国際宇宙ステーションミッションよりも高いところ、いままで有人飛行があまりおこなわれていない神戸まで上がる予定です」「スペースデブリのせいでリスクはかなり大きなものとなります」(←高度が上がると空気抵抗が減り、燃え尽きたり地球に落ちたりしにくくなるため、ゴミがなかなか減らない)「デブリがキャビンに貫通するおそれもありますし、熱シールドがやられて宇宙船が再突入に耐えられなくなるおそれもあります」
    「高度を下げて周回できる軌道もあります。190kmまで下げることも可能です」
    「どうしてそうしないんだ?」
    「国際宇宙ステーションより高く飛びたいと顧客が望んでいるからです。アイザックマン氏としては、できるかぎり高いところまで行きたい、と。スペースデブリの説明はしました。アイザックマン氏も同行の方々も、リスクは理解した上で受け入れると言われました」
    「そうか。だったらいいじゃないか」「きちんと話してあるなら、なにも問題ないと思う」
    (実際にインスピレーション4で宇宙に行ったジャレッド・アイザックマンいわく)「また月に行こうとするのなら、火星までも行こうとするのなら、快適なところから少し踏み出さなければならないと思うのです」

    「50年も前に米国は人を月まで送り届けた。だがそのあと、進歩はなかった。退歩だけだ。スペースシャトルも低地球軌道までしか飛べなかったし、シャトルが退役したらそれさえもできなくなってしまった。
    「技術というのは、放っておいても自動的に進歩するものではありません。今回のフライト(民間ロケットが民間人をはじめて軌道まで送り届けたインスピレーション4のこと。国際宇宙ステーションよりも高い575km上空まで人を送り届けたのは、1999年ハッブル宇宙望遠鏡を修理したスペースシャトルミッション以来)は、進歩の裏に人間の力があることをはっきり示してくれました」

    「昔は設計と生産を分けていたのだが、あれは最低最悪のまちがいだった」「きみたちが生産プロセスまで責任を持て。だれかに渡しておしまいなんてもってのほかだ。設計のせいで作るのに金がかかるのだなら、設計から変えろ」

    マスク流エンジニアリングの思想って、昔の日本メーカーで当たり前におこなわれていた会社・部門横断的なすり合わせそのものに見える。ただし、日本的なすり合わせが、ともすると、責任の所在を不明確にし、よく言えば総合力・結束力の勝負、悪く言えば誰も責任をとらない体制に陥りがちだったのと比べると、マスクのそれは明確に違う。むしろ、個人にとことんまで責任を負わせ、その人のポテンシャルを極限まで引き出したうえで、できなければ首をすげかえる。そういう冷徹さ(というより、人間の感情に対する不感症)が、マスクにはある。

    AIの暗い未来について。「ラリー・ペイジが心配なんです。AIの危険性について彼とずいぶん話をしたのですが、わかってもらえなくて。最近はほとんど口もきかなくなってしまいました」

    人とコンピュータ間の情報のやりとり(ヒューマン・コンピューター・インターフェイス)の通信速度は遅すぎる。音声認識のSiriは当然人間の話すスピードを超えられないし、タイピングで人間がマシンに伝えられる情報は1秒間に100ビットくらいしかない。「考えたことをそのままマシンに流し込めたらいいだろうな。頭とマシンを高速接続で結ぶみたいな感じで」→ニューラリンクの開発。頭にチップを埋め込んで脳の信号をマシンに送り、マシンから信号を受け取れば、いまの100万倍のスピードが実現できるはず(脳の処理速度はそこまで速くないだろうが、言語化プロセスを経由しなければかなりのスピードで情報をやり取りできるのは間違いない)。

    「バンクスの本(イアン・バンクス『ザ・カルチャー』シリーズ。人間に埋め込み、思考を直接コンピュータに伝えるニューラルレースが登場する)を読んだとき、これがあれば人工知能との戦いで人間を守れるかもしれないと考えました」
    「商業利用(ALS患者向けの開発など)でニューラリンクの開発資金をまかなえれば、10年か20年くらいで、人間の世界とデジタルマシンを緊密につなぎ、悪のAIから身を守るという究極の目標を達成できるでしょう。

    SFマニアのマスクの中では、AIがもたらすディストピアは規定路線のようになっているが、A Thousand Brains(1000の脳)理論のジェフ・ホーキンスは別の見方をしている。生存本能に由来する人間の欲望はおもに古い脳がカバーするが、人間を人間足らしめている新しい脳(新皮質)には、他人を貶めてでも自分は生き残ろう、はびころうとする意志はそもそも存在しない。AIに目的(≒欲望)を与えるのは人間だが、最初から「古い脳」の機能をAIから排除すれば、そもそも人間やその他の生物のような欲望をAIが持つことはない。隙あらばあまねく存在したいという欲望を持たないAIは、人間が不要だとして排除するという未来は原理的にありえない。そんなものは、ウソと恐怖とネガティブな想像力によってでっちあげられた空想にすぎない。(この議論に興味がある人は、『脳は世界をどう見ているのか: 知能の謎を解く「1000の脳」理論』を参照のこと)

    ニューラリンクの幹部で、マスクの個人的パートナーともなったシボン・ジリスのマスク評。「イーロンほど1分辺りに学べることが多い人には会ったことがありません。そういう人に人生をつぎ込まないのは愚かだと思います」

    リスクについての考え方②:
    テスラのドライバー支援システム使用中の事故は273件、死亡事故は5件あったが、マスクは事故の朱印はソフトウェアではなく、ドライバーにあると考えていた。だから、社内撮影カメラでドライバーの行動を記録しろと。
    「その件については、プライバシーチームと検討しました。事故があった場合でさえも、セルフィの動画がどの車両で撮影されたものなのかを特定することはできません。少なくとも弁護士からはそう指導されています」
    「この会社の意思を決めるのは私だ。プライバシーチームではない。そもそも、プライバシーチームなんて、だれがメンバーなのかも知らない。プライバシーをしっかり隠していて、だれなのかなんてだれにもわからないんだろう」「そしたら、完全自動運転の使用中に事故が起きたらウチがデータを収集するとポップアップを用意したらどうだろうか。それならいいんじゃないか?」
    「顧客にきちんと伝えた上でなら大丈夫だと思います」

    気候変動対策の軽視から当初は反トランプ、親民主派だったマスクは、コロナ禍で工場の操業停止を命じられたのをきっかけに、反民主の立場を鮮明にし、有名な「Take the red pill」発言で共和党支持に変わる。行きすぎたポリコレにも反対し(トランスジェンダーの娘ジェナとの不和が、余計にマスクをそういう方向に押しやった)、woke mind virusに対抗すると陰謀論めいた ツイートを繰り返すように。

    「ウォークはコメディの違法化を考えていますが、それはクールじゃないと思います。デイヴィッド・シャペルの番組を打ち切らせようとか、ほんと、勘弁してほしいですね。ユーモアのない社会、非難と憎悪に満ち、許しのない社会になんてしたくないですよ、ウォークは、排他的で憎しみやわだかまりを生みます。硬結であるかのようなうわべで武装し、卑劣な人が卑劣で残酷であれる盾なんです」

    まるでネトウヨの論法だが、言論の自由を平気で封鎖しようとする昨今のポリコレの行き過ぎについては、彼らの言い分にも一理ある。自分が不快だからそれを世の中からなくせ、というのは、本来多様性とは相容れない論法で、よりによってなぜそんな方向に行ってしまったのか、理解に苦しむ。

    ウクライナの通信インフラがロシアの攻撃によってダウンしたとき、ウクライナ副首相のミハイロ・フェドロフの要請に応えて、マスクがスターリンクの利用をウクライナに開放したのは、新時代の幕開けにふさわしい大英断だったが、戦争が長引くにつれ、経済的な負担だけでなく、政治的・軍事的な側面がスターリンクの経営を圧迫するようになる。スターリンクがウクライナに無償で提供した通信機器やその利用料の総額は8000万ドルあまり。だが、ウクライナ軍がクリミア半島セバストポリに駐留するロシア海軍を奇襲するため、スターリンクを使って無人潜水艦6隻を送ろうとしたことで、マスクは決断を迫られる。核戦争の引き金を引きかねない状況に自社サービスが一枚噛んでいるというリスクは、一民間企業が負うには重すぎる。即座に、クリミア海岸から100kmはサービスを切る決断を下し、ウクライナ軍の秘密裏の作戦は失敗に終わる。

    「ウクライナの攻撃が成功してロシアの舟が沈められていたら、ミニ真珠湾みたいなことになって戦争がぐっと激化したかもしれません。そんな話に一枚かむのはさすがにご勘弁ですよ」

    ゼレンスキー大統領のアンケート形式のツイート「ウクライナを支援するマスクとロシアを支援するマスク、どちらのイーロン・マスクがいいですか」
    マスクの返信「ウクライナにスターリンクを提供し、維持するためスペースXが負担した費用はいまのところ8000万ドルというところです。ロシアに対する支援額は0ドル。我々がウクライナ側なのは明らかでしょう」「クリミアを取り返そうとすればたくさんの人が死にますし、おそらくは失敗します。核戦争に発展するおそれもあります。そんなことになったら、ウクライナにとっても地球にとっても悲惨です」

    「当初は、病院や銀行が業務を続けられるようにと人道支援や防衛目的でウクライナに無償でサービスを提供しました。ところが、ウクライナは、それで無人潜水艦を遠隔操作してロシアの艦船を吹き飛ばそうとかしてくれたわけです。救急車や病院や母親を助けるためなら喜んでサービスを寄付しますよ。会社も人も、そういうことをすべきだからです。ですが、無人機による軍事攻撃にかかる費用を負担するのはまちがいです」

    →最終的に、ウクライナにおけるスターリンクサービスは、各種政府機関を通じて支払いを受ける、利用の条件などは軍が定めるということで落ち着く。軍用サービスのスターシールドも立ち上げ、その衛星やサービスは販売またはライセンス供与という形で米軍や米政府関連機関に提供された。→それをどう使うのかを決めるのは米政府の責任であって、スペースXの業務とは切り離された。

    オーディブルはウォルター・アイザックソン『イーロン・マスク 下巻』の続き。

    気候変動に対する危機感は共有するビル・ゲイツとマスクだが、信念の通し方はだいぶ違う。ゲイツはあろうことかマスクの嫌うテスラが下げることに賭ける空売り筋の一人だった。EVはすぐにコモディティ化するだろうという読みがあるからだ(実際、中国のEV攻勢でトヨタのハイブリッド車を締め出すEUの戦略も見直しを迫られている)。だから、投資家としては正しいのかもしれないが、マスクにはそれが理解できない。

    「悪いのですが、気候変動の解決に一番尽力している会社、テスラに大規模な空売りをしかけている人が進めている気候問題の事前活動など、真剣に考えることはできません」

    民主主義が機能するには言論の自由が絶対必要であり、Twitterはそういう場でなけれならないのに、トランプのアカウントを永久追放するのはやり過ぎだ、それは検閲じゃないか、というのがマスクの考え。その証拠に、フォロワー数のトップを誇る人たちが面倒を避け、ツイートしなくなっている。このままではオワコン化してしまうという危機感があった。

    「ツイッターに投資したのは、言論の自由を守る世界的プラットフォームになれると信じたからです。そして、言論の自由は民主主義が機能するために欠くことのできない社会規範だと信じているからです。
     しかるに、その後、今の形式ではツイッターがにぎわうこともなければ、この社会規範を実現することもできないと考えるにいたりました。ツイッターは株式を非公開とする必要があります。
     よって、ここに、ツイッター株式の100%を現金で買い取ることを提案します。価格は1株54ドル20セント」

    以下、マスクのツイッター観の変遷。
    「基本的にロープアドープをやられてましたから。話を聞き、頷いて、なにもしないわけです。私としては、仲間として迎えられた挙句、取締役会を内から崩壊させる獅子身中の虫みたいなことはしたくないと思ったのです」
    「まじめな話だ。9%の株主ではあの会社を立て直せないし、公開の市場は翌四半期より先まで考えたりできない。普通のユーザーに紛れているボットや詐欺師をぜんぶ洗い落とさなきゃいかん」
    「機能面でウィーチャットに並ぶ必要があります」「なかでも重要なのは、コンテンツを生み出す人がツイッターで支払いを受けられるようにすることです」
    「ツイッター上でどういう発言なら許されるのか、その「絞りを開きたい」、色々ヤバげなことを書く人も含めて永久追放は避けたいという話もあった。ラジオやケーブルテレビは革新系と保守系に分かれている。ツイッターは90%以上が革新的な民主党員である(マスクはそう見ている)コンテンツモデレーターが右派を押し出し、同様の分断をソーシャルメディアにもたらしつつあるのかもしれない。
    「パーラーやトゥルース・ソーシャルのように、似た意見の人が集まるエコーチャンバーばかりという世界にソーシャルメディアをしたくないのです。視点の異なる人が一カ所に集まり、やりとりができるようにしたいのです。そのほうが、文明にとっていいはずですから」
    「最近はメディアがどんどん集団的浅慮に走って同調圧力が高まっており、みんなと足並みをそろえなければ排斥されたり黙らされたりすることになります」
    「言論の自由とリーチの自由は違うと思うのです。タイムズスクエアの真ん中でなにかを言うだけなら、なんでもアリです。それこそ、ホロコーストなどなかったと主張するのも問題はありません。だからといって、その主張を何百万人もの人に広げる必要があるという話にはならないわけです」「なるべく多くの人にツイッターを使ってほしいわけです。そのためには、楽しんでもらう必要があります。苦しい思いや不快な思いをさせられたら、使わなくなるでしょう。言いたいこを言える一方で、気持ちよく使えるようにもしなければならず、そのバランスを上手に取ることが大事なのだと思います」
    「ツイッターにはいま、ソフトウェア技術者が2500人いる。ひとりが1日にたった3行かくだけでーーばからしいにもほどがあるレベルだがーー年に300万行、つまり、新しいオペレーティングシステムができるくらい書けるはずなんだ。でもそうなっていない。なにかおかしい。すさまじくおかしい。コメディじゃないんだから、さ」「基本線を決めよう。オートパイロットは150人で作っている。ツイッターもそこまで絞り込みたい」

    コンテンツモデレーションについて。

    マスク「はっきりさせておきたいんだけど、ミスジェンダリングはクールじゃないと私も思ってる。でも、棒と石ってほどの話じゃない。つまり、殺すぞと脅すのと同じじゃないと思うんだ」
    コンテンツモデレーション担当のヨエル・ロス「そのとおりだと思ったんですよ。私は検閲旅団だのなんだのとよく言われるのですが、正直な話をすれば、もっと控えめな対策だって可能なのに凍結してしまうことが多すぎると昔から思っていたんです」→ツイートに警告メッセージを添えるあたためてきたアイデアを披露。
    マスク「うん、いいねぇ。それだよそれ。そうすべきなんだよ。そういう問題のあるツイートは検索にも引っかからないようにしたほうがいいだろう。タイムラインにも表示しない。でもたとえば、プロフィールページでその人の投稿をずらっと見ていけば、そのツイートも見ることができる」
    →問題のあるツイートやユーザーを凍結せず、「可視性フィルタリング」で拡散されにくくするというロスのアイデアをマスクが承認。
    →マスクが検閲には反対だと表明したことを受け、どこまで許されるのか試してみようとトロールや煽動家が山のようにわいて出た。
    マスク「ツイッターでヘイトスピーチは許さん」「絶対にだ」
    ロス「悪意のしたたるツイートの急増に、我々は全力で対処しています。特定の文言を使うツイート5まんけんあまりが、わずか300個のアカウントから発せられています。そのほとんどは人が書いているものではありません。今回、トロール攻撃をしかけてきたユーザーはアカウントを凍結します」
    マスク「はっきりさせておく。ツイッターのコンテンツモデレーションポリシーはまだ以前のままなにも変わっていない」
    →5年前の民主党寄りのツイートで攻撃に晒されたロスを擁護するマスク「いかがなものかと思われるツイートはだれでもしたことがあるはずだ。私なんぞ、すごく多い方だろう。いずれにせよ、この際、はっきりさせておくと、私はヨエルの味方だ。彼はとても誠実だと私は思っているし、我々は、それぞれ異なる政治的信念を持つ権利がある」

    陰謀論に傾きがちなマスクのツイート。
    「私は私でしかありません」「私のツイッターアカウントは私という個人の延長です。そして、私という人間は、ばかなことも呟いたりしますし、まちがうこともあるわけです」

    マスクの問題意識は、自分のものときわめて近い。だが、人間感情がわからないマスクは言論の自由を甘く見すぎていたというか、人間に対する理解が決定的に乏しかった。

    「スペースXやテスラに比べればたいしたことはないはずだと思っています。火星に行くのとは比べものになりません。地球の産業をそっくり持続可能エネルギーへと変えていくことに比べたら、そう難しいものではありません」
    「エンジニアリングならマスクは直感的に理解できるが、人間の感情については、頭の配線具合から対応が難しい。だから、ツイッターの買収は問題なのだ。ツイッターをマスクはテクノロジー企業だと考えていたが、実のところは、人間の感情や関係に基づく広告メディアである。ニューヨーク(広告主やエージェントとの打ち合わせ)では懇願モードが必要になるのに、マスクは怒っていた。
    「4月に買収が表沙汰になって以来、ずっと攻撃されてるんです。広告契約をしないようにと活動家がよってたかって圧力をかけています」

    オーディブルはウォルター・アイザックソン『イーロン・マスク 下巻』が今朝でおしまい。

    トランプのアカウント復活をツイッター民に対するアンケートで決定するマスク。1500万票も集めたツイッターアンケートの結果は、51.8%:48.2%の僅差で復活支持。「民は語れり。トランプは復活とする。民の声は神の声」。こういう結果になると予想していたのかという問いにはノー、結果が逆なら凍結のままにしたかという問いにはイエスと答えたマスク。「私は、別にトランプのファンじゃありませんので。なにかと騒動ばかり起こしますし。たわごと選手権の世界チャンピオンですからね」

    マスクが破壊したのはツイッターの企業文化であって、ツイッターそのものではなかった。「ある意味、マスクの汚名はすすがれたと言えよう。社員の大半がいなくなったにも関わらず、ツイッターは、若干不安定になっただけで生きのびているし、機能も基本的には生きている。ぶよぶよの会社を適正サイズにスリム化するとマスクは約束し、いま、ツイッターは、実際、最低限の人数で動いているわけだ」

    過去のツイッターのコンテンツモデレーションがいかに偏っていたかを調べるために、フリーのジャーナリストに声をかけ、「存分にやってくれ。北朝鮮のガイドツアーじゃないんだから。好きなようにしてもらってかまわない」と、社内情報へのアクセスを許可して実現したツイッターファイルでは、リベラル寄り(社員の政治献金の98%が民主党向け)のツイッターが右派の発言にフィルターをかけがちだった事実が明るみに。
    「社内でブラックリストを作成し、望ましくないと考えるアカウントやテーマの可視性を抑えていた」
    「『暴力』や『害』、『安全』といった言葉を拡大解釈して制限を強化していた」
    コロナ対策「死人さえ出かねないいかさま療法をすすめるなど、明らかに有害なデマもあった。だが、mRNAワクチンに心臓関連の副作用があるのかとか、マスクに効果はあるのか、ウイルスは中国の研究所から流出したのかなど、ふつうに議論して差し支えがないはずのものも含め、国などから出される公式見解にそぐわないものが抑制されていた」

    「ツイッターファイルは、過去50年におけるジャーナリズムの変化を象徴するものだと言える。ウォーターゲート事件やベトナム戦争の時代、ジャーナリストにとってCIAや軍部、政府は疑うべきものだった。少なくとも、盲信してはならないものだった。そして、デイヴィッド・ハルバースタムやニール・シーハンのベトナム報道やボブ・ウッドワードやカール・ばーんすたいんのウォーターゲート報道に触発されてこの道に入った人が大勢いた。
     それが1990年代に入ると、特に9・11同時多発テロ後は、政府高官や情報機関と協力し、情報を共有することをよしとするジャーナリストが増えていく。ツイッターをはじめとするテック企業が受けとるブリーフィングを見ると、同じことがソーシャルメディア企業にも起きているものと思われる。「監視や情報支配の世界的装置に主要部品として組み込まれる以外、これらの会社に選択肢はあまりないものと思われる」とタイービは書いている。「ただし、各社幹部は、そこに吸収され、侵略者を助ける売国奴のような働きをすることに喜びをさえ抱いている人が大半であることも、さまざまな証拠から示唆されている」

    車用AI(テスラのオートパイロット機能)の開発のために。
    ・テスラには世界最大級のニューラルネットワーク訓練用スーパーコンピューターがあり、ドージョーというスパコンも自社開発していて、チップのNVIDIA製GPUではなく、オリジナルを採用。処理能力は8エクサフロップス(浮動小数点演算を10^18/毎秒できる)近くと、AI訓練用として世界一のスパコンとなる予定。
    ・テスラドライバーによる運転映像、2023年初頭の時点で1000万フレーム

    「ニューラルネットワークというややこしいことは、ほとんど遭遇しない特殊ケースに対応する以外には不要ではないか」と問われたシェフは、ニューラルネットワークプランナー搭載の車がゴミ箱やカラーコーンなどが散乱した道を障害物を上手によけて、時には車線の境界線を跨ぎ、ルールに反する動きをしながらすり抜ける動画を示す。「ルールベースからネットワークパスベースに変えるとこうなるんです」「この機能をオンにすれば、それこそ雑然とした状況でも、衝突するのに突っ込んでいくことは無くなります」
    マスク「ジェームズ・ボンド見たいなデモをすべきだな。いたるところで爆発が起きていて、空からはUFOも落ちてくるのに、車がすべてをすり抜けて吹っ飛んでいくやつだ」

    ・ニューラルネットワークパスベースのソフトウェアは人間が記述したルールベースよりもシンプルで、実行速度は10倍、コードは30万行も少なくなった。
    ・ニューラルネットワークは100万本のビデオクリップでようやく実用レベルに達し、150万本を超えたあたりから性能がどんどん向上した。→他社に対する競争優位。200万台のテスラ車が公道を走って毎日何十億フレームの動画が手に入る。

    2023年4月OpenAIがGPT-4をリリース。グーグルもそれに対抗してバードを発表。
    →Open AI+マイクロソフト、ディープマインド+グーグル陣営に対抗する第三の極の必要性。(ウォークマインド・ウイルスに感染していない中立公正なAIが必要+人類に反旗を翻さないAIの開発)
    →人類を守る安全なAIを開発するためにX AI設立。
    →AIの燃料はデータ。グーグルとマイクロソフトは、検索エンジン、クラウドサービス、電子メールなど、次々と湧いて出てくる打ち出の小槌を持っている。
    →マスクの手元にあるのはツイッターのイキのいいデータ+テスラのリアルワールドのデータ。
    →AGIの聖杯となるのは、肉体から離脱した言葉で人間に驚きをもたらす以上の存在、工場や事務所や火星などの物理的空間で人間のように動ける機械を作ること。テスラとツイッターのデータと処理能力を活用すれば、物理的空間でどう動けばいいのかを教えることも、自然言語で質問にどう答えればいいのかを教えることもできるはず。
    「テスラの現実世界AIは過小評価されています。テスラとOpenAIが仕事を交換したらどうなるか、想像してみればわかるはずです。彼らがkぉれから自動運転を開発する、我々は巨大言語モデルのチャットボットを作る。どちらが先にゴールに飛び込むか。我々ですよ」

    スターシップ打ち上げのために規制当局から数々の許可を得るのがいかに無意味で大変か。
    「文明はこうして衰えていくんだな。リスクを取らなくなる。そして、リスクを取らなくなると、動脈硬化が起きるんだ。審判がどんどん増え、プレイヤーはどんどんへっていく」
     こうして、高速鉄道とか月に行けるロケットとかを作れなくなったんだ。
    「成功が続くと、リスクを取る気概が失われるんだ」

    「衝動を抑える遅延ボタンーーそれひとつで、マスクのツイートはもちろん、闇の衝動にかられた言動や悪魔モードの噴火など、通ったあとをがれきだらけにするあれこれが浄化できるなら、すばらしいことだろう。だが、そうやって抑えたマスクは、自由なマスクと同じことができるのか。口にフィルターをかけ、首に縄をかけても、マスクはマスクでいられるのか。まっとうなところもおかしなところもひっくるめ、マスクという人間を丸ごと受け入れることなく、我々は、ロケットを軌道まで打ち上げたり、電気自動車の世界に足を踏み入れたりできるのだろうか。偉大なイノベーターは、つまらない教育に反発し、リスクを求める「男の子」だったりする。むちゃだったり、周りが眉をひそめるような人間だったり、それこそ、毒をまき散らす人間だったりする。クレイジーなこともある。そう、自分が世界を変えられると本気で信じるほどに。」

  • こういう人が世界を変えるんだなと思う。すごいし、尊敬するし、かっこいいとも思うが、関わり合いたくはない。

  • 上も面白かったが、結局下も面白い。
    正直上で、イーロンの生き様は十分伝わった気がするが、それが終始貫かれているだけではあった。w

    ただ、
    - スペースX
    - Twitter買収
    - 自動運転、AI関連
    などどんどんスケールが大きくなっているのが
    読んでて伝わってきたので、楽しくワクワク読めた。

    イーロンになりたいともなれるとも思っていない、
    ただ、イーロンはカッコいいとも感じた。

    # イーロンのコア(私見)
    - 幼少期、やばい父親からの影響大
    - 銀河ヒッチハイク・ガイドが好き
    - 自閉症、アスペルガー傾向あり
    - 常にオール・インして、勝つまでやり続けるスタンス
    (買ってもやり続ける)
    - 大きく(一見無謀な)ヴィジョンに邁進する
    - 自分にも、他人にも120%(限界突破)を求める
    - 人を切ることを厭わない

  • オーディブルにて。
    イーロンマスクの大ファンの私。もはやアイアンマンにしか見えていない。
    「私は火星に人を送ろうとしている。そんなことをする人間がごく普通であるなどと、本気で思われているのですか?」
    この言葉が全てだと思う。どんなに傍若無人で身勝手で意味不明な行動を取ろうとも、凡人とは考えていることの次元が違うのだから仕方ない。むしろそういう人がいなければ人類の進歩はないと感じた。
    ただ、自分が従業員としてイーロンの下で働きたいかと聞かれたら、絶対に嫌だけれど。笑

  • Amazonオーディブルにて。
    アメリカ人の伝記は人名が全く頭に入ってこなくてボンヤリ読み終わってしまった。
    主にTwitter買収、改革周りがどう語られるのかが気になってたんだけど、それほど深い考えもなくその場の勢いでやったことなのかなと感じた。

    マスクのTwitterはフォローしていたんだけど、あの呟きをしたとき実はこういう状況にあったんだ、と結びついたら多少面白かったかもしれない。全然結び付かなかったけど。

  • (古本を購入)
    読み始めた(4月8日)〜読み終わった(4月日)

  • 下巻は2020年~2023年の話。火星に行くというスペースXのミッションを達成するための営利事業としてスターリンクを立ち上げる話からスタート。スペースXで大型ロケット「スターシップ」を建造するプロセス、テスラのオースティン工場の立ち上げ、テスラのロボット開発、脳で直接動かすコンピューター「ニューラリンク」開発、ウクライナに対するスターリンクの無償供与をめぐるエピソードが切れ目なく続く。
    そして2022年に入りツイッターの買収に関して、一度は買収から降りようとするが結局同社を買収し、テスラやスペースXで行ったのと同様の「シュラバ」を作って事業/組織を根本的に転換していく2023年4月時点までの話。

    イーロンマスクの頭脳が常人離れしていることは否定しがたいが、あまりにも狂信的な仕事ぶりや物の考え方と進め方を知ると、彼という一人の人間に今の社会がこんなに振り回されていることが阿保らしくなってくる。

    本書ラストから現在(2024年4月)までの約1年で、世の中ではOpenAIのChatGPTが公開され、TwitterがXに社名変更した。EVは米大統領選の政争の具となり、テスラはBYDとの販売台数鈍化にさらされて販売台数が低下。テスラ株価が低迷する中でマスクに対する風当たりは強い。一方でスペースXは2024年3月についに軌道飛行実験に成功した。好むか好まざるかはともかく、マスクが現役である限り、彼が経営する複数の会社が、世界を変えるサービス・商品の提供を続けるのだろう。

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著者プロフィール

ウォルター・アイザックソン【著者】Walter Isaacson
1952年生まれ。ハーバード大学で歴史と文学の学位を取得後、オックスフォード大学に進んで哲学、政治学、経済学の修士号を取得。英国『サンデー・タイムズ』紙、米国『TIME』誌編集長を経て、2001年にCNNのCEOに就任。ジャーナリストであるとともに伝記作家でもある。2003年よりアスペン研究所特別研究員。著書に世界的ベストセラー『スティーブ・ジョブズ』1・2、『レオナルド・ダ・ヴィンチ』上下、『ベンジャミン・フランクリン伝』『アインシュタイン伝』『キッシンジャー伝』などがある。テュレーン大学歴史学教授。


「2019年 『イノベーターズ2 天才、ハッカー、ギークがおりなすデジタル革命史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ウォルター・アイザックソンの作品

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