客観性の落とし穴 (ちくまプリマー新書) [Kindle]

著者 :
  • 筑摩書房
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感想・レビュー・書評

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  • 客観的であること、数値化できること、それだけが評価の基準になるのはどうなのか。もっと1人ひとりの経験や体験、言葉や表情からその人を尊重する社会であるべきなのではないか。

    外へ出ること、人に会うことが億劫で家で1人でのんびり過ごしているのに、SNSが気になるのは、1人で過ごす自宅が安心できる居場所というには、自分を肯定してくれる人の存在が足りない場所だからなのかと納得する。

  • 客観的正当性、エビデンス、数値で示す等、主張や反論を行う際に求められるものですが、それが全てで大丈夫なのだろうか、それ在りきで失われるものは無いのだろうかという「落とし穴」を、著者の経験から具体的に書かれています。というよりも、世間のそういった普遍性とでもいうものから逸れてしまっている問題点について、なぜそのように世の中から見えないように、存在が軽薄化してしまってしまっているのかについて、警鐘を鳴らすために客観性の正当性への疑義から始められていると思います。全体を俯瞰したときに、そこからはみ出すものについては無視しても問題ないということは、世の中の多くの現象に当てはまるものでもあり、著者もそれを否定したいわけではないと述べられています。しかし無視してはいけないものとしての人間があり、はみ出した部分の人間が、はみ出した部分の人間(自身も含めて)を不幸にすることはやはり問題だという主張が真に迫って感じられました。
    本書を読んだ後にふとして、世相としての人間は確かに普遍的なのですが、自分の周囲にいる人間で普遍的な人間というのは居ないのではないかという単純なことに気付かされました。

  • 売れている本らしい。タイトルは魅力的である。客観性とは何かについて深く説明しているかと想定したが、そうではなかった。様々な事象について説明しているものである。大学生がこれを読んで卒論に使うかどうかはわからない。

  • 定量化・統計によって「客観的」な評価を行うことがもっとも重要、という考え方について、それでいいのか?という視点が提示されている。
    一つひとつの個別性、偶然性をおろそかにすることは、危うさをはらんでいる。なぜなら、定量化して客観性を高めることは、人間の単純な序列化につながってしまうから。過去には、優生思想として、序列化が人間の尊厳を大きく損なうような歴史の過ちがあった。
    定量化するということは、ものごとの見方の一つの側面であり、手法にすぎない。

    個別性、偶然性を大事にすることが、なぜ、どのように重要なのかというのが、自分の中でうまく言語化できなかったのだが、少し考えて、これは人間の経験に深く刻み込まれる、身体知なのではないか?という仮説に至った。だから言語化できない、でも重要だという直感がある。引き続き考えたい。

    そういう大事なテーマを投げ抱えてくれている本。

  • 客観性と数値を盲信する事への警鐘をならし、一人一人の経験と語りから出発する思考方法を提案する良書。

  • いうまでもなくエビデンスは重要である。客観性や統計もおなじく。ただ、それは限定的な場面において効力を発揮するものでもあり、あらゆる状況において活用できるものではないのだが、現代はエビデンス至上主義ともいえる時代でもある。本書の筆者も学生から「客観的な妥当性はあるのか」などと問われるらしい。大変である。

    本書はエビデンス批判のようにも見えるのだが、当然ながら筆者もエビデンスの重要性は織り込み済みで、批判の矛先があるとすれば、なんでもかんでも客観性に落とし込む、エビデンスを万能包丁のように振り回す至上主義の部分である。ただ、それよりも代替案に力が入っている。

    キーワードはケア、倫理といったところだろうか。筆者は個別性や語りに重点を置き、経験に光を当てる。こう書くと「ひとそれぞれの体験が大切だ」という凡庸な意見にも見えるのだが、これを述べるための下準備はなかなか凝っている。

    本書はよく売れているそうだが、内容で引かれている多くは思想家や哲学者たちであり、最後に出てくるのは現象学である。
    この内容で一般的に売れているというのは意外といえば意外ではある。エビデンス批判に惹かれて売れているのではないかと思うのだが(実際、帯文もそのあたりを煽る感じだった)、そういう動機で買ったひとが満足するかどうかはとにかくとして、エビデンス至上主義への息苦しさを感じているひとびとが多いことは間違いないのだろうと思う。

  • T.N

  • タイトルから想像されるような内容ではなかった。客観性や数値を優先すると序列化が起こり、そこからこぼれ落ちる弱者が生まれる。そういう弱者の「経験」にも価値があり、その生々しさから得られる知もある、それをつかみ取るための言葉と方策を探る一書。

  • 現代社会の過度の客観性、統計への信仰、絶対視に対して警鐘を鳴らしており、一人一人の体験にこそ真理があるという指摘をしている。
    一方で、後半は話の内容が福祉に偏っており、論の進め方に一貫性が感じられなかった。

  • 3.6

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程満期退学。基礎精神病理学・精神分析学博士(パリ第7大学)。現在は、大阪大学人間科学研究科教授。専門は現象学、精神医学。著書に『治癒の現象学』(講談社メチエ)『レヴィナス』(河出ブックス)『摘便とお花見-看護の語りの現象学』『在宅無限大』(医学書院)『仙人と妄想デートする 看護の現象学と自由の哲学』(人文書院)などがある。

「2023年 『客観性の落とし穴』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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