- Amazon.co.jp ・電子書籍 (162ページ)
感想・レビュー・書評
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ヒトラーについて、悪いこともやったが「良いことも多くやった」という言論は最近多くなっているように感じます。ホロコーストという歴史的な大虐殺をやったヒトラーについて礼賛することは、戦後永らくタブーとされてきたのだが、トランプをはじめ「ヒトラーは良いことも沢山やった」との発言は増えているようです。
考えてみれば当たり前の話で、織田信長や豊臣秀吉の話を持ち出すまでもなく、歴史上の人物は良いことも悪いことも行なっています。問題なのは、このような発言にの意図です。この本はヒトラー研究者である著者が客観的な立場で冷静にヒトラーが行った良かったこととされている、アウトバーンの建設やフォルクスワーゲン の開発についてその果たした歴史的意義について論じています。
スターリンや毛沢東も同じですが、「数千万人も殺したという歴史的な犯罪行為を「良いこともやった」からといって賛美してしまうのは間違っていると思います。「良い事もやった」というのは当たり前のことなのですからそれをわざわざ強調するのは何か隠れた意図を持っているものなのです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
<事実><解釈><意見>。
正しい<事実>に基づいて、何が正しい<解釈>とされているかを踏まえて、<意見>を形成することの大切さ。 -
ネットではナチスが良い政策や発明をしたのだ、という言説が定期的に流れるが、それはな本当のことなのか。歴史学的な見地からナチ党の本質を見抜く。
ナチがよいことをしたのかどうかをファクトチェックする、という建前の本です。発端はツイッターでよく流れてくるらしい、ナチは虐殺だけじゃなく良いこともしている、という見解。これに歴史学者としてどう捉えるかというものですが、実にしっかり全てを叩き潰されてしまって、なんだか気分爽快な読後感でした。
大事なのはその出来事単体ではなくて歴史学的な見方をしよう、と訴えているところで(簡単にいえば切り取りはよくない)、メモ的にいうと①事実、②解釈、③意見と、手順を踏んで出来事を検証する。前後の文脈も含めてこそいえるものだ。というもの。ともすれば切り取りだけをしてドヤってしまうのだけど、歴史的文脈から論ずるのは確かに大切でしょう。そしてナチに限らず普遍性のある歴史の見方でもあると思います。
え?じゃあ、それはそれとして、スポット的に切り取られて言われるナチのやったいいことは事実なの?と思ったらこちらもファクトチェックレベルで綺麗に否定されてしまいます。本当に気持ち良い。
そんなこんなでナチスの本質は民衆を欺くのが上手な政権だったのだ、ということでまとめられてしまうのですが、これは多分に示唆的で、民衆には常にこうした「だまされたい」欲求があるんじゃないかな、とも(某SNSなんか見てると)思います。都合の悪いことには目を向けたく無いよね。明るいこと言ってくれる人の方が気持ちいいよね。そう、これ、昔の話じゃなくて今でもみんなそうだよね。 -
たいへん良質な入門書。歴史とは現在と過去との絶え間ない対話であるというカーの言葉を強く意識させられる本。
ナチ党は公共事業や労働者への補償、自然保護、健康などの聞き心地のよい言葉をお題目として政策としたがそれは、障害者やユダヤ人、同性愛者などを排除し、またドイツ人の生存圏を拡大するために他国を侵略することとまさに表裏一体のことなのである。それが本書を読めばよくわかる。
現代、さまざまな言説空間でナチス擁護の論を展開している人は、ほとんどがこのお題目しか見ていない。その根底にあるのはポリコレ的価値観への反感や逆張り精神のような幼稚なものである。
私がこの本を読んで感じたナチ党の特質は、どれだけ怪しげなことでも自信過剰に大規模に喧伝することが人をどれだけ惑わすかを知っていたことだと思う。
現代日本のルサンチマンがこのようなプロパガンダに踊らされないかを当事者として注意する必要がある感じた。 -
この本を読んで、思い出した映画があります。
ジョジョ・ラビット。
第二次世界大戦中、ヒトラーを盲信する少年、「弱虫」ジョジョが、ユダヤ人の少女エルサと出会い、考えを変えていく物語です。
この作中、いじめられっ子のジョジョに何かと気をかけてくれるナチスの大尉(怪我をしたために少年団の教官を努めている)が登場します。
この人が、何かと良い人なんです。
武器の使い方から、不器用なジョジョでもできるようなお使いを頼んだり、最期には、、、ここは映画で楽しんでいただきたいので、割愛します。
通して映画を見た中で、この大尉が一番のお気に入りになりました。つっけんどんでいて、それでいて優しい、「良い人」として描かれています。
さて、なぜこの映画の話題から始めたか、というと、理由があります。
この本を書かれた小野寺、田野氏の論調が、この映画の感想と一部リンクしたからでした。
教官大尉はとても良い人だった。
しかし、それはナチ全体の所業と一致するものではなく、全体を肯定するわけではない。
個別の行為が民族主義思想に基づく虐殺行為を肯定するのは間違っている。という考えです。
岩波ブックレット、というシリーズに初めて触れましたが、その店を平易な書き方でわかりやすくまとめてあり、とても読みやすかったです。
得に面白かったのは、この本を書くきっかけが、旧Twitterで起きたナチス擁護議論(炎上)だったこと。
その経緯が、作中でもふんだんに引用されています(本家岩波文庫では想像できません!)
しかし、その卑近な事例からテーマを抜き出し、書かれていることから、よりナチ擁護の意見の反論文として、引き込まれやすい文調だと感じます。
一点気になった事があるとすれば、各章の中でナチスが行ったとされる悪行が列挙されるところでしょうか。
「彼らは、こんな酷いことをしたと思われる」
という文脈は少し疑問符が浮かびました。
ナチス=悪い集団という認識なので、一見読み飛ばしてしまいそうですが、背景や根拠が提示されていない事実をただ鵜呑みにするのは避けたいです。
それこそ、この本が注意を促している、都合のいい情報だけをつまんでしまうのではないかと。
SNS上のスピーディーかつ、軽い議論の雰囲気が本の中に流入しているかもしれません。お気をつけてご一読ください。 -
Amazon Audible にて。ナチス肯定論に対して、専門家である筆者が丁寧に論破した本。わかりやすく面白かった。専門家の良識を感じた。
高校生が読むと良いと思うので #ブックサンタ のタグをつけておく。
読む前は、漠然と経済政策、アウトバーンやフォルクスワーゲンなんかは部分的に肯定してもいいんじゃないかと思っていたけど、それが浅はかだったことがよく分かった。ナチスのやったことは、侵略戦争とホロコーストと地続きなんだから結局部分的に良かったなんて言い切れるものではないと感じた。
一方で、それまで進められてきたことを引き継いだだけで、ナチスが始めたことではないからナチス政権の功績ではない、の理屈にだけはちょっと違和感があった。どんな政権であっても、それまでの政権の正負の遺産を受け取って運営するんだから、それを引き継いで全力で押し進める判断をしたならその政権の功績に繋がるんじゃないのかな。
あと興味深かった箇所2点。
自家用車や旅行を一般市民に行き渡らせる、という夢を語っただけで、ほぼ実現はしてなかった、という話。未来が良くなるという夢だけで経済活動は回り景気が良くなる、実現するかどうかは本質じゃない点は、正しく資本主義的だなと思った。
あとは出産奨励したけど、実際はそれほど子沢山にはならなかったという話。20世紀の全体主義国家であってもそんなもんなのか、日本の少子化が止まる未来が想像できないなと思った。 -
最終章まとめの部分ではしょーもない陰謀論にハマる人の心理みたいなことにも触れられていて、SNS上で暴れる無知を憂う識者のため息を感じた。お疲れ様ですほんとに。
ちょっと不満だったのは、「この本では巷に流布する"ナチスは良いこともしてた"説を検証し反論しているけど、そもそも、たとえ本当に"良いこともしていた"としてもナチスの犯した罪の重さとは全然関係ないんだけどね」ということをハッキリと言ってくれていなかったこと。
アカデミア界では当たり前のことすぎてわざわざ書こうとも思わなかったのか、それとも、ちゃんと文章を読まず瞬間の感情だけで反応することでおなじみのSNS民にわやくちゃにされないように敢えて躱したのか…
「ほら、やっぱりナチスは良いことなんかしてなかったんだよ、"実は○○は○○だった" みたいなキャッチーな話に飛びついてRTする前にちゃんと事実を確認しないとね」っていうことがこの本の言いたいことだと私は思うんだけど、
「ほら、やっぱりナチスは良いことなんかしてなかったんだよ、だからやっぱりあいつらサイテーなんだよ」って言ってるようにも読めちゃう造りになってしまってるのが残念。最初からそういうストーリーとして消化したくて読む人いっぱいいるだろうし。(だってこんなタイトルなんだし) -
HhHHから何冊かナチス関連の本を読んでみて、確かにナチスは目的はともあれ結果的に良いこともしたのではないかと思う気持ちがあった。ナチスの巧妙なプロパガンダが今現在も効いてしまっているのだろうか?
そして、この本はその疑問をずはりそのままタイトルにしたものであり、専門家である著者がこの本を出したのは、世の中に同じ疑問や思いを抱く人たちが少なからずおり、そして同時にその思いは間違いであることをきちんと理解させる必要があると思ったからである。
ナチスの唯一の功績は、これだけ後世に多方面にネタを提供したことではないか、、、
しかし、かの自動車メーカーをヒトラーが創設したとは夢にも思わなかった。
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ネットによくある(らしい)「ナチスは良いこともしたのだ」という様々な説に対して、本当かどうかを検証する本。
読む前の印象は「そりゃ人間の集まりなんだし、何かしら良い事もしてるのでは?」であった。
しかし本書の結論は「無い」である。
なぜそうなるのか、詳細は読んで頂くとして、自分なりにその理由をまとめると次のようになった。
・ナチスの目的は戦争に勝つことなので、一見良さそうな政策であっても、必ず負の側面を帯びている
・具体的には、以下のパターンがある
・人種差別や迫害を前提にしている
・戦争を起こすことを前提にしている
・大衆の支持を集めるための、ただのプロパガンダである
・こうした側面を持つのに、ある程度良い結果を伴ったとしても、それを「良いことをした」と言っていいのか?
なるほど、納得できる理由だと思う。
表面上の情報だけで判断してはいけないなと思った。
勉強になった。
しかし本書の真価は、あとがきの「なぜこういったデマに飛びついてしまうのか」の分析にあると思う。
ネットでは日々様々な新説・珍説が流布されている。
筆者によると、それらに惹かれてしまう人たちの心理は次のようなものだという。
・長年かけて教え込まれた「綺麗事」への不満が溜まっており、反発したいと思っている
・「ヒトラーは良いこともした」というような「斬新な」説を信じることは、「自分は新しいことを知っている」という優越感を満たしてくれる
・結果として怪しげなデマであっても、教科書的な見方を否定する内容であれば、いともたやすく「真実」として見なされてしまう
・これは、いわゆる「中二病」的な反発にすぎない。実際にナチズムがどういう体制だったのかには、無関心なことが多い
これは的を射ていると思う。
ちゃんと調べれば分かるようなことを調べもせずに、自分に都合のいい部分だけ注目して大騒ぎする人は実に多い気がする。
本書に載っている例を一つ。
ヒトラーが少女に優しく接している写真がツイッターに流れた時に、
「ヒトラーは実はいい人だったんだね」や、あまつさえ「ホロコーストの黒幕は他にいたのでは?」といった発言すらあったらしい。
さすがに短絡的すぎるだろう。ゾッとする。
何事にも批判的な姿勢を持つのは大切なことだ。
しかし中身が伴わなければ、ただの愚かな短絡思考に過ぎない。
情報過多な今の時代にこそ読むべき、素晴らしい一冊だった。