歌われなかった海賊へ [Kindle]

著者 :
  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • 第2次世界大戦末期のドイツで正規のレジスタンスではない「エーデルヴァイス海賊団」(組織だった反体制派ではなく、ばらばらに体制に反抗する不良少年集団)について書かれた小説。彼らの政治意識は希薄で、ナチが気に入らないという一点でつながっている。その活躍を描くことで、街区指導者・地区の守備を担当する陸軍少尉・教師・巨万の富を得た企業などを通して、戦時下における人間の愚かさ・醜さを伝えている。ストーリーは、強制収容所を探るワンダーフォーゲルの旅での映画「スタンド・バイ・ミー」を彷彿させる冒険活劇的要素もあり、飽きさせない。ボクシングチャンピオンとのタイマンの勝負など戦闘シーンは読み応えがある。ただし、重いテーマだけに安易なハッピーエンドにはならない。人種やジェンダーも含めて差別や分断について考えさせられる作品でもある。

  • 1944年のナチ体制下にある敗色濃厚なドイツが舞台、父を密告され処刑で亡くしたヴェルナー少年が出会ったレオンハルトとエルフリーデにエーデルヴァイス海賊団なる仲間に誘われる。

    片田舎の彼らの街に敷かれた鉄道レールの先に胡散臭さを感じとって密かに探った結果、そこにある悲惨非情な現実を知ることに。
    その真相を実は人々も感じていながら、表面は見ない聞かない知らない素振りばかりなのだった。

    そんな中 自らの考え方生き方を糧に巨大な体制や世間に抗して行動する少年少女達の活躍がとてもいい!

    歴史青春小説と謳ってあるが、とてもそんな括りでは表せない素晴らしい作品でありました♪

    前作の「同志少女よ、敵を撃て」も大したものだと感服したけれど、この作品では更に純度が上がっていて思わず唸るほどに読み応え充分でした。

  • 先月、佐藤究さんと逢坂冬馬さんのトークショーに行くため、慌てて本屋さんに買いに行った「歌われなかった海賊へ」。
    「読みたい」ではなく、トークショーを楽しみたいという不純な動機で手に取った作品。

    でも、今は読んで本当に良かったと思う。

    今までヒトラー、ナチス関連の本を怖くて読んだ事がなかった。

    「歌われなかった海賊へ」を読んでナチ体制下で生きた人々の生活が伝わってきた。
    価値や思想が統一化され、その枠から外れた人達や特定の人種を排除し人間と認めない世界。

    戦争に突き進んだ終戦間近のドイツ、ナチ体制が普通の人達の生活をどんな風に変えてしまったかが伝わってくる。

    そんな中で自分達の価値観や生きる道を手放さずに生きたエーデルヴァイス海賊団。
    彼らの生き方に心震えた。

    線路の先にある秘密を知ったヴェルナー達が
    1人でも多くの人を救いたいた戦う姿。

    処刑台に向かう仲間を助けるために
    一緒に歌って欲しいと助けを呼びに走った
    ヴェルナーとフリーデ。

    レオからの残された手紙。

    「歌われなかった海賊へ」のタイトルの意味がわかった時の心が締め付けられる思い。

    読み進めると海賊たちの生き方に引き込まれ
    他人事とは思えなくなってきて
    読んでいる間ずっと辛かったけれど、
    物語のラストに一筋の希望の光を見た。

    この物語を通して真実を語り継ぐ人達がどれほど大切で、それと同じくらい大切なのは真実を知ろうとする人達。そういった人達が増えていく事が平和な世界を作る力や流れのようなものになっていくのかなぁと読み終えて感じた。
    読んで本当に良かった。

    xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx

    トークショーでのお話を少し。
    佐藤究さんの幽玄Fがカッコ良過ぎて、もっとお話が聞きたくてトークショーに行った。
    でも幽玄Fのお話はそこそこに、
    佐藤さんはベテラン司会者のように逢坂さんのお話を色々と引き出してくれた。

    逢坂さんは映画好きで本は大学生の頃から読み始めた事。
    まさにジブリの『耳をすませば』のような家庭環境で育ち文学世界に日常的にふれる環境であったこと。
    ロシア文学研究者のお姉様から、ナチ体制下にパン屋さんはないよ。工場で作ってるはずだからと作品にチェックが入ったお話。

    色々楽しかったけれど、印象に残ったのは
    逢坂さんが一作目を出した頃に実際に戦争が起こり、自分の作品が投影され、もともとの作品とは違った読み方になってしまったとお話されていた事。

    戦地に行かれたお祖父様の平和への強い思い。
    優しくていつも笑顔で、何でも許してくれるお祖父様が戦闘機のプラモデルを欲しいと言った時に、ただ一言「ダメだ。」と言われた思い出。ダメと言われたのはこの一度だけで、それだけに戦争の悲惨な体験が伝わり戦地でどれほどの体験をしたのかと思いを巡らせたこと。

    逢坂さんが強い平和への気持ちとは反対に戦闘機(特にロシア戦闘機のフォルム)に魅力を感じてしまう心の葛藤。

    2作目は何を書いたら良いのか長く悩み、自分が書きたいものを見つけるまでの生みの苦労。

    心揺さぶられる本を読むといつもどんな作家さんなんだろうと思いを巡らせる。そんな欲望が少し満たされるトークショーは、
    作家さんの作品への熱量が直に伝わってきてとっても良かったです。

  • 『歌われなかった海賊へ』―ナチス下、若き抵抗者たちの軌跡

    『歌われなかった海賊へ』は、ナチス政権下のドイツで起きた、忘れ去られた勇気ある抵抗の物語を描き出します。逢坂冬馬氏によるこの作品は、父を処刑され居場所を失った少年ヴェルナーが、ヒトラー・ユーゲントに反旗を翻すエーデルヴァイス海賊団と出会い、共に闘う過程を通じて、人間の心の葛藤と行動の自由について深く問いかけます。

    この物語は、1944年のナチス体制下のドイツを舞台に展開され、市内に敷設された線路の先で目撃された「究極の悪」への立ち向かい方を描いています。読者は、ホロコーストの悲劇について学んだことがあるかもしれませんが、この作品はその裏側にある、知られざる抵抗の物語を明らかにします。

    人間が人間に対して行うことができる残酷な行為と、それに直面したときの人間の心の動きを描き出すこの物語は、読む者に深い感銘を与えます。特に、地雷を使った陰湿な残酷さや、人間を苦しめる者が笑顔でその行為を正当化する様子は、この物語で印象的な部分でした。しかし、それにもかかわらず純粋な少年少女たちが見せる勇気と抵抗は、人間の持つ希望と善の力を示しています。

    『歌われなかった海賊へ』は、ただの歴史小説ではなく、ナチス政権下での人間の存在と行動の意味を問い直す作品です。人間がどのように心と行動を支配されるのか、そしてそのような状況においてもいかにして「歌える人」であり続けるか。この作品は、残酷で悲惨な歴史の話を通じて、忘れてはならない教訓を私たちに伝えています。

    私たち自身が、現代で同じような状況に直面したとき、彼ら海賊団のように勇気を持って行動できるのか、この作品を読むことで、その答えを探す旅が始まります。『歌われなかった海賊へ』は、歴史の一ページに刻まれた若き抵抗者たちの声なき歌を、今に伝えるための貴重な作品です。

  • 前作「同志少女よ、敵を撃て」がおもしろかった記憶があるのでかなり期待して読んで、おもしろかったし、よかったんだけど、やっぱりちょっとYA(ヤングアダルト向け)っぽいというか。まあ主人公たちが若者だからいいんだけど、ほんの少し子どもっぽい気がしなくもないって言ったら失礼か…。どうしても佐藤亜紀とかと比べてしまって……。
    でも、ナチスドイツ体制下の話だけど、そうきいて想像するようなものとはちょっと方向性が違うというか、ナチス支配下の、あくまで普通の人々について、普通の人々はなにを考えてどうしていたのか、みたいな話になっているところがすごくよいと思った。
    「エーデルヴァイス海賊団」という、ナチスの青少年組織ヒトラーユーゲントに対抗する若者の集団が実際にあったことも初めて知ったんだけど、この集団は政治的な主義主張があって反抗する、というよりはただ、人に強制されずに自由に好きなように行動したい、という若者の集団だったらしい。で、主人公はそういった集団に出会って仲間となり、一緒に、自分の村の先にある強制収容所に続く線路を爆破しようとする。その強制収容所は「ないもの」とされ、ただの操車場であるとされていて、村の人々もそう言っていた。主人公たちは、純粋に、罪のない人々が強制的に収容され労働させられ殺されているのを知りながら知らん顔をしているのはまちがっている、という正義感で行動する。真実を知れば人々は味方になってくれるだろうと思って。でも、だれも味方になってはくれなかった。みな、強制収容所であると気づいていたのに、見て見ぬふり、黙認。
    でも、もし自分が村人の立場でも同じかもしれない、と思った。ほんとに子どものころから思想を統制されていたらそうなるというのもわかった。個人個人はどんなに善人であっても、良識ある人でも関係ない。それが本当に怖いと思った。
    で、大切なのはやっぱり、お金を稼ぐとか経済とかには関係ないのかもしれないけど、「文化」である、っていうこと。

  • エーデルヴァイス海賊団が、戦争中に少年少女でありながら信念を持って暴れ回るお話。痛快であったが、P343からの説明っぽい現代の語りが野暮ったい。

  • 第二次世界大戦におけるナチスドイツ政権に対し、反発して信念を貫こうとした若者たちの物語。
    自分らしく生きるとはどういうことなのか、深く考えさせられる。
    これは楽しむための小説ではない。娯楽作品ではない。
    しかし、社会情勢が不安定である今こそ読むべき物語であった。

    戦時中が舞台であり且つナチスドイツ政権がテーマであるため、物語は最初から最後まで非常に重苦しい雰囲気が漂う。
    どうか幸せになってほしいと願う心も虚しく叶わないストーリーであった。
    だからこそ、そこにリアリティを感じた。
    自分が生き残るために子どもを見殺しにする大人たちの醜悪な姿が印象的だ。
    また、そうまでして生き残ったとしても、その後の人生において罪の意識から逃れられない姿も心に残った。

    誰が悪いとか何が正しいとか、私には判断できず今もわからない。
    ただわかるのは、人権と尊厳を踏みにじる権利は誰にもないということ。
    それだけは間違いない。

  • エーデルヴァイス海賊団、初めて知りました。
    読み終わった後に色々知りたくなりました。
    この作者の前作が面白すぎて、この作品も気になっていました。
    今このタイミングでこの作品に出会えて良かったと思います。


    信じることに対して声をあげて、行動に移すって中々できることじゃないです。

  •  期待を寄せて、積ん読して寝かせていました本書を読み終えました。

     舞台はドイツの田舎町で、実在した ”エーデルヴァイス海賊団" を元にした少年少女達が主人公です。現代と戦中(1944年頃)の物語でもあります。


     プロローグの現代ドイツのくだりでググッと引き込まれました。

    どこの町にもいるであろう、何をして(何を食って)生きているのかわからない老人、いわゆる "偏屈じいさん" が登場するのですが、このキャラクターに戦争の "本当のこと" を語らせているという書き出しが、個人的にすごくグッときました。

     また彼に偶然出会った学生の教師が、戦争中のその教師の祖母(彼女も教師)の人生と繋がっていきます。これが本書の大きな伏線となるのですが……。
    構成はともかく、すごいです……。


     一方、本編の戦中ドイツは、ナチス政権下で、強制収容所での過酷な労働と非道な人種差別の実体が描かれています。その一部を目撃した”エーデルヴァイス海賊団"が取った行動は、とても勇敢なものでした。読み手の私からすれば、群衆にうもれてしまいがちな性分があるので、勇気をもらえました。「敢えて勇む」ということが人生のある局面では大事なのかもしれない、と。


     キャラクターについては、黒髪ボブのフリーデ、金髪イケメンのレオ、のっぽ爆薬オタクのドクトル、健康不良少年ヴェルナーの4人組の ”エーデルヴァイス海賊団" がカッコいいのはもちろんですが、それぞれが抱えるそれぞれの問題を「アイデンティティを巡るあれこれ」と括ってしまうのはなんだか違うなと思います。
     
     彼らは過去の存在ではありますが、「分からないから良い」みたいな感性をちゃんと持っているのが素晴らしいと思います。分かった気になるなよという自戒というか。
    現代社会の「ダイバーシティ(多様性)」であったり「インクルージョン(包括性)」であったり、「エクイティ(公平性)」であったりの "DEI" を体現しているような存在でした。
    そういえば、海賊団には自由謳歌の為のルールがあります。「自分のことは自分で責任をとる」「助け合わない」といったものです。


     また、作中に出てくるフリーデが作曲した歌という文化的装置も、強烈なミームで古川日出男さんの『ミライミライ』を想起したりしました(他作を取り上げてしまいすいません)し、ここが本当は一番重要なのかもなと思いました。上手く書けませんが、本書のタイトルが物語っていることを掴み取ってみると良いかもしれないです。
     

     舞台と時代、キャラクターの魅力も相まって、総じて、とても深く読ませられる本書でした。私としては、期待通りの大ヒットです。

  • Amazonオーディブルにて。あの面白かった「同志少女」と同じ作者の本だったので手に取った。
    第二次世界大戦のドイツで、体制に馴染めない若者たちが海賊団を結成する。序盤は特に、海賊団?遊ぼう?という表現に違和感があってイメージがつきづらかった。読み進めるうちに、一人一人の背景に思いが至ってその辺は気にならなくなった。

    ありのままの自分でいることが社会や体制への批判につながる。自分たちは楽しく気ままに過ごしたいだけなんだという言葉が重い。
    少女にドイツの良き妻、良き母となれという教えが牧場の家畜のようだ、みたいな表現があったけど、同感だと思う。少子化対策がこの方向にいってはいけない。

    強制収容所や貨物列車の描写は、映画シンドラーのリストを思い出しながら読んだ。

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著者プロフィール

逢坂冬馬(あいさか・とうま)
1985年生まれ。35歳。埼玉県在住。『同志少女よ、敵を撃て』にて第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞。

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