帳簿の世界史 [ブックライブ]

  • 文藝春秋
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  • ブックライブ ・電子書籍
  • / ISBN・EAN: 9784163902463

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  • 著者のジェイコブ・ソール氏は会計学と歴史学を専攻する南カリフォルニア大学教授。「ルイ14世の財務総監であるコルベ ールが近代国家を建設するためにどのような改革を行ったかをまとめた 『 T h e I n f o r m a t i o n M a s t e r 』を執筆した際 、ルイ14世が年に二回 、自分の収入 ・支出 ・資産が記入された帳簿を受け取っていながらも 、やがてその習慣を打ち切り 、フランスを破綻させてしまったという事実を知り 、 『帳簿の世界史 』の研究を始め」たと紹介されている。

    本書は14世紀に北イタリアで発明された複式簿記が国家や企業の発展と没落、そして産業革命以降の世界経済にどのように関わってきたかを記述し、考察する。
    この本で、国家を含め、会計という観点から見れば、どんな組織でも、その興亡はパターン化してしまっているのが俯瞰できる。
    「会計の発展には一つのパタ ーンがある 。最初にめざましい成果を上げたかと思うと 、いつのまにかあやしい闇の中に引っ込んでしまうのである 」。
    会計は組織を発展させる。と同時に、施政者の失敗も数字とともに残酷に示してしまう。そして施政者は帳簿を闇に葬り去り、気付いた時には財政破綻が迫っているというパターンだ。スペイン無敵艦隊の敗北、フランス革命、どれも帳簿への軽視が絡んでいる。
    本書は、タイトル通り「帳簿の世界史」をわかりやすく説明する。また、帳簿を扱った絵画作品を多数紹介。これは、ユニークなアプローチである。
    また、エピソードも興味深い。
    例えば、アテネでは、帳簿係は奴隷だったらしい。「アテネ市民が奴隷を帳簿係や監査人に雇いたがったのは 、疑わしいとなったら拷問にかけられるからである 」。そして、「不正はある程度までやむを得ないとして容認され 、むしろ厳格な監査はいたずらに平穏を乱すと見なされた」らしい。

    最終章では、現在の監査法人の法人の問題を考察する。大手監査法人が、監査を通じて知り得た情報を基にコンサルタント業を開始。コンサルタント部門の利益は、監査部門より大きくなる。したがい、監査法人はコンサルタント業の逸注を怖れるようになり、公正な監査が不可能になる。エンロンの事件は、この構造的矛盾による。また、「現時点では規制当局も監査法人も 、変化し続け威力を増し続けるウィルスのような金融ツ ールやトリックにはるかに遅れをとっている 」。これより、著者は「経済の破綻は 、単なる景気循環ではなく 、世界の金融システムそのものに組み込まれているのではあるまいか 。金融システムが不透明なのは 、けっして偶然ではなく 、そもそもそうなるようにできている」と警告する。本書で「帳簿の世界史」を俯瞰した後では、この言葉は重く感じる。

    付録として「帳簿の日本史」と題する小文が巻末にある。単式簿記は律令国家に既に存在していたこと、江戸時代の商人は筆書き、縦書きながらも複式簿記を使っていて、西洋簿記への転換も容易であることが説明されている。何となく、日本人として自信が持てた。

    この本を読むと、ギリシャの財政問題、FIFAの汚職、東芝の不正会計問題が、世界史の中で考えられるような気もしてくる。学術的な本だが、娯楽性も高い。重いけど、読めば、新聞も楽しくなる★5つ。

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