李歐 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (1999年2月8日発売)
3.85
  • (675)
  • (508)
  • (841)
  • (53)
  • (15)
本棚登録 : 4511
感想 : 585
4

夏は高村薫が読みたくなるという法則があり、これは未読のため購入。本作は元々書かれた「我が手に拳銃を」という作品を大幅に加筆・修正したもの。加筆が多い作家だけど、タイトルまで変えるのはめずらしいね。
物語のスケールは大きい。香港のシンジケートあり、フィリピンの反政府ゲリラあり、天安門事件ありとかなりの重厚さであるが、それに比して内容は薄い、と言わざるを得ない。相変わらずの硬質な文体と、過剰なほど食い込んでいく登場人物の内面描写は圧巻であるが、なんだろう、、、素材は豪華なんだけど出てきた料理は大したことないという感じか。唐突に登場人物が複雑な世界情勢や政治背景について語り始めるのだが、そのあたりにどうしても無理やり感が出てしまってるように感じられる。それによりその部分が浮き上がって見えてしまい、結果作品全体のバランスが崩れてしまっているように思う。
主人公がなぜそこまで危ない橋を渡るのか、拳銃になぜそこまで偏愛を持つのかあまり理解できなかった。
李歐に惚れているからで済まされるのか、、、、ボーイズラブもまあいいんだけど、主人公が他の女性と重ねる情交(けっこうな回数)のシーンにおける、会話や行動の古臭い描写はやはり違和感として感じられる(これは他の作品についてもいえる)。
あと一番おかしかったのが、勤務先の隣にある教会のスウェーデン人牧師である。記憶喪失だったのが突然記憶が蘇って手紙を送ってくる。その内容が物語の進行に関する重大な要素を含んでいるというご都合主義には目をつむったとしても、手紙の文章がもはや明治の文豪かというくらい格式高いのは違和感を通り超して笑ってしまった。そんなあほな、、、、
結論としては、高村薫の書く文章が好きな人なら楽しめるが、それ以外の人は微妙かな、と思いました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年1月3日
読了日 : 2021年1月3日
本棚登録日 : 2021年1月3日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする