書を捨てよ、町へ出よう (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2004年5月19日発売)
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『書を捨てよ、町へ出よう』。
元来ひきこもりがちで出不精、本棚の前で背表紙を眺めているだけでも有意義な一日を過ごせる自信がある私にとっては、出会った瞬間から衝撃的な言葉だった。
それからは事あるごとに、おまじないか合言葉のように「書を捨てよ、町へ出よう」と心の中で唱えてきたけれど、実際に読むのはこれが初めて。
三島由紀夫の『不道徳教育講座』のような内容かと思っていたら、寺山修司のふざけたエッセイのようなもので、椅子から転げ落ちそうになった。
彼は21歳のときはじめての本を出版し、創作活動に勤しんでいたものの、病気になって三年間の入院生活を送っていたのだそう。
病床での友人との手紙のやり取りや、戦争への捉え方の変革を経て、彼はついにブッキッシュな生活から遠ざかろうと決心した。そして快方するやいなや、町へ飛び出し、生活を一変させたのである。
青年よ大尻を抱け、新宿のロレンス、競馬のメフィスト、馬の性生活白書……。
なんなのそれ、めっちゃ面白い。馬鹿馬鹿しくて、くだらなくて、出先で顔を顰めたり笑いを堪えたりしながら読んだ。しみじみと、読んで良かった。

寺山修司は、自分は「青春煽動業をやってきた」と言っていたそうだが、言い得て妙。ここにあるのは、煽られるような青春!
私には青春といえるようなものは無かったし、書を捨てるなんて到底出来るとも思えない。
町へ出るのは相変わらず億劫だけれど、でも町へ出ると、いつもそれなりにちゃんと楽しい。
わかってる。ふと夢から醒めたように、このまま家の中でじめじめと文字を追い続けるだけで死んでいくの?と思ったりもするんだよ。
三十路にもなって、羨望とも観念ともつかないような気持ちでそれを実感している。
だから私は、これから先の人生でも飽くことなく何度も「書を捨てよ、町へ出よう」と唱え続けるのだと思う。いじましく、書をカバンにしのばせながら。外は春の匂いがして、咲き始めた桜はとてもきれい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 名著
感想投稿日 : 2023年3月20日
読了日 : 2023年3月10日
本棚登録日 : 2023年3月10日

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