タイトルが素敵だなぁとなにげなく買って、なにげなく1ページ目を読んですぐに閉じた。
名作なことは知っていた。それでも「これはやばい」と直感したのだ。これは、私が絶対にどうしようもなく好きになってしまうタイプの小説だ、と。
なにげなく読み始めるのは言語道断、然るべき時を待ち心して読まなければならないと自分に言い聞かせ、夏至から小暑にかけての今、満を持して無事に読み遂げることができました。
予感どおり、切なくて、甘苦しい悲しみと、少女の一瞬の永遠がどこまでも伸びやかにひろがる素晴らしい小説だった。もう二度とやってこない17歳の特別な夏だ。
ものうさと甘さが胸から離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重々しくも美しい名前をつけるのを、わたしはためらう。その感情はあまりに完全、あまりにエゴイスティックで、恥じたくなるほどだが、悲しみというのは、わたしには敬うべきものに思われるからだ。悲しみーーそれを、わたしは身にしみて感じたことがなかった。ものうさ、後悔、ごくたまに良心の呵責。感じていたのはそんなものだけ。でも今は、なにかが絹のようになめらかに、まとわりつくように、わたしを覆う。そうしてわたしを、人々から引き離す。
この小説の書き出しです。過不足のいっさい無い、なんて洗練された精巧で完璧な文章!
訳者あとがきを読むと、サガンは生前「作家のなににまず敏感か」と聞かれて「その声です。」と答えたと書かれている。それは一行目から聞こえてくる、いちばんたいせつなもの、と。まさにこの書き出しがサガンの声そのものだと衝撃を受けた。
綿矢りさ「蹴りたい背中」の書き出しにも同じような衝撃を受けたのを思い出した。
- 感想投稿日 : 2019年7月2日
- 読了日 : 2019年7月2日
- 本棚登録日 : 2019年7月2日
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