モモ (岩波少年文庫(127))

  • 岩波書店 (2005年6月16日発売)
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ドイツの児童文学。
時間貯蓄銀行を名乗る灰色の男たちと、不思議な少女モモとの戦いが描かれる。
登場人物にお話し好きの観光ガイドであるジジという男性が登場するが、彼のお話だけでも十分におもしろいのがすごい。

社会に一石投じる内容となっていることは明らかである。豊かな生活を求めて頑張っていたはずだった。なのに気付くと大切なものを失っていた。豊かに思えた生活は空しく、味気ない時間に変わっていた。
人々を救うためにモモは立ち上がる。

以下、ネタバレ有り。(備忘録)

時間貯蓄銀行を名乗る組織は、人々が時間を無駄に浪費している時間を貯蓄に回すことを提案する。人々は将来の為に無駄な時間を差し出すことになった。日々は忙しく過ぎ、無駄だと思われるものは排除された。子供たちは抑圧され、親は子供と接することもせずに忙しく働いていた。そして子供たちは皆、子供学校と言われる矯正施設に入れられることになる。人々は殺伐とした世界で、仕事を進め、いつも時間に追われ、笑うこと、遊ぶこと、愛し合うことをやまてしまう。

全ては豊かな生活の為だった。

裏で時間貯蓄銀行は、人々の時間を蓄え、時間の花から葉巻を作って吸い込み、人々から奪った時間を消費して生きていた。彼らは人々の時間を糧として生きていたのである。莫大な時間を貯め込む時間貯蓄銀行の正体は、人類を支配し、時間を吸って生きる時間どろぼうであった。

モモは時間を司るマイスター・ホラと時間に縛られないカシオペイアの協力の下で、全ての時間を停止させることになる。時間が止まった世界で、時間どろぼうは、ため込んだ時間を使い動くことができた。だがいつか訪れる時間の枯渇を恐れ、互いに存在を消し合う争いを始める。彼らの生は、人間の時間を燃やすことで維持されているため緊急の事態であった。人間から奪った時間こそが、彼らの命の時間なのである。時間が止まった世界で、一凛の時間の花を持つモモは、カシオペイアと共に時間貯蔵庫の解放に成功する。モモは人々の時間の花と共に、元の世界に舞い戻る。皆が生き生きと話始め、これまでの虚無から解放されお祝いムードいっぱいになり、めでたしめでたし。

時間の花は、それぞれが他のどれよりも美しく見えるという不思議なものになっている。私はこの時間の花の描き方がとても気に入った。今見た花よりも次の方が美しく見えるという。そしてその次はまたこれまでで一番美しく見える。

著者のみじかいあとがきもおもしろい。

読了。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年10月4日
読了日 : 2021年10月4日
本棚登録日 : 2021年9月28日

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