文字渦 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2021年1月28日発売)
3.45
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本棚登録 : 950
感想 : 46

久々に読んだけどやっぱり圧倒される。そしてやっぱりすべてを理解することは出来なかった。
本作は文字自体が主役となり、文字たちと踊るように綴られた短編集であり、実験的な手法で様々な小説を書いてきた円城塔の哲学や小説技法をふんだんに盛り込んだひとつの到達点と言えるだろう。
文字に振られた”ルビ”の方がめちゃくちゃ自己を主張してきたり、文字どおしが戦いを繰り広げたり、「門」という文字が様々な文字を生み出していったり、とにかく理解できるできないに関わらず異様な感触を読むものに与えてくる。作中の表現を借りれば「文字が”生きている”」という錯覚に陥るほど、各短編で文字たちがうごめいており、凄すぎて作者大丈夫か?と心配になるくらいだ。
正直精読していっても頭に入ってこない部分もあり手強い作品ではある。とはいえ兵馬俑、オートマトン、源氏物語、ボルヘス、プログラミング、密教など、様々なモチーフが各短編には入っており、自分なりのフックを見つけて格闘するかのように読むのが正解なのかもしれない。
「梅枝」なんかは作者である円城塔の文字に対する異常な執着と偏愛、問題意識や哲学が込めらており、『源氏物語』の一説をカタカナにすることで「小説を書くことの意義」や「小説を読むことの不確定性」を提示しており面白かった。
映像化、どころかオーディオブックにすることさえ不可能な小説であり、おそらく翻訳するのも難しいだろう。日本語の「文字」と戯れ、文字を転がし、文字と向き合い、その”生態”を観察した究極の「文字小説」。間違いなく奇書ですね、これは。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年1月15日
読了日 : 2024年1月15日
本棚登録日 : 2024年1月15日

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