昭和二十年夏、女たちの戦争

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (2010年7月9日発売)
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本棚登録 : 83
感想 : 14
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いったい、あの菩薩のような笑みを浮かべた知的な涼しい顔をして、どうしてこうも重いテーマの本ばかりをさらりと出すのでしょうか、梯久美子は。

太平洋戦争での日本の死者310万人のうち、非戦闘員、銃を持たない民間人・市民の数はその四分の一に達するということは、たとえ疎開をしようが防空壕に入ろうが、常に死と隣り合わせにあって恐怖の中にいたことは間違いありません。

でも、戦争中は不倫が多かった、妻子を疎開させた男性と、都市に残って勤労動員させられていた独身女性との恋愛があちこちでみられた、などという話は驚くと同時にほっと胸をなでおろしたくなります。なぜなら、たしかにそのとき十代、二十代だった彼女たちが一番きれいで輝いていたときに、この国は戦争の真っ只中だったわけですが、不倫であれ何であれ、溢れる恋愛感情、押し寄せる性愛感情は、今の時代と少しも変わりない人間的な欲望としてたしかにあったということを知ったからです。

この本は、読んでいて、近藤富枝(元NHKアナウンサーのちに作家)、吉沢久子(生活評論家)、赤木春恵(俳優)、緒方貞子(元国連難民高等弁務官)吉武輝子(日本最初の女性宣伝プロデューサー)の方々の、自らの過ぎ去った65年前の鎮魂歌などではけっしてなく、今も振り向けばすぐそばにある生の証という感じがしました。

本当に戦後65年ということは、残念ながら、間違いなくますます体験なさった人たちが少なくなって来つつあるということで、あの戦争の何から何まで、一つも漏らさず残さず次代に伝えていくという貴重な仕事をなさったと、深く敬意を表します。



この感想へのコメント
1.yujiro (2010/08/11)
薔薇サン はじめまして。
梯 久美子って今まで知りませんでした。
戦時中に青春時代だった人は今80歳前後でしょうか?
本当にご苦労されたことでしょうね。
ボクは終戦の時に生まれたので、直接戦争は知りませんが
亡くなった両親から引き揚げ時の話しはよく聞かされました。 国は国民を大陸に遺棄したんですね。
二度と戦争はしてはいけないですね。

2.薔薇★魑魅魍魎 (2010/08/13)
私も彼女は昨年出た『昭和二十年夏、僕は兵士だった』を読んだのが初めてでしたが、人となりはその前からNHKの週刊ブックレビューで見聞きして信頼できる人物だとは思っていました。
本当に、戦争はやってはいけないこととしての認識を持つことと、現実に世界各地で行われている戦争に対してと日本で起こそうとしている勢力に対抗するようにもっと注意を払い反対の声を上げる必要があると思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2011年7月18日
読了日 : 2010年8月3日
本棚登録日 : 2010年8月3日

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