137年前、1872年(明治5年)11月15日に、東京は高輪に生まれた小説家というより、あまりにも有名な名作の誉れ高い『半七捕物帳』の原作者です。
『半七・・』は、いうまでもなく日本最初の十手持ち、つまり岡っ引きが主人公の捕り物小説ですが、何を隠そう言わずと知れたシャーロック・ホームズからヒントを得て着想された、今の警察小説の元祖みたいなものです。
自らも吉原の芸妓を落籍(身請け)して結婚したり、『修禅寺物語』(舞台は鎌倉時代ですが)など新歌舞伎の創作にも情熱を注いだりして、江戸情緒をふんだんに満喫する、懐古趣味いっぱいの捕物帳の作者にはうってつけではあります。
例によって、私が岡本綺堂と出会ったのはやっぱり映画です。
その名もずばり『半七捕物帖 三つの謎』(1960年)では、あのべらんめえ口調も滑らかな半七親分に片岡千恵蔵、色白の二枚目・桐畑の常吉に東千代之介などという名配役で、小2の私は訳もなくしびれたものです。今から考えると、よくよく変な女の子でしたね。
それから、たしか『手討』(1963年)という悲恋ものでは、青山播磨に市川雷蔵、お菊に藤由紀子という、あの番町皿屋敷コンビと、それに青山播磨の同僚・新藤源次郎という役柄で、まだ城健三郎という名前だった頃の、後の若山富三郎が出て、ひときわ輝くというか、少しも主役に負けていないことを子供ながらに感じました。
そこからです、岡本綺堂と名のつく本を探しまくり、江戸時代そのもの面白さに目覚めさせられ、たぶん落語への興味もその時つちかわれた気がしますし、やがて半七よりもっと奥が深いものがあることを発見、それがこの本の世界です。
この本は、敬愛する東雅夫が伝奇ものをコンパクトな一冊にまとめた労作で、私が図書館や近所の好事家のおっちゃんや親戚の蔵などを発掘しても読むことができなかった、単行本未発表の作品も入った貴重なものです。
半七をご存知の方は、もちろん異なる岡本綺堂の顔を知ることでイメージの一新が、初めての方は、ひょっとしてこちらの方が強烈なインパクトで決定的なイメージを持たれるかもしれませんが、いずれにせよ、その全体像を松本清張や山田風太郎などもお手本として、自分の創作の模範としたのに違いありませんので、それが文庫で読めるこのありがたさ。ぜひぜひご一読を。
- 感想投稿日 : 2009年11月15日
- 読了日 : 2009年11月15日
- 本棚登録日 : 2009年11月15日
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