★燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや
「スペースを求めて、樹木にまで拡大された紅衛兵の、溢れかえり、はみださんばかりのエネルギーを感じとることもできるが、それよりも、有効の感覚が彼等の中に動いていたと見なければならぬ。しかし、至る所に壁新聞ありというのは、全体としては、ヒエラルキーの崩壊である」
壁新聞の一言や『人民日報』の一枚の写真が、毛沢東の強烈なアジテーションとして機能するように企図していたことを膨大な資料を駆使して明確にする草森紳一にしか書けない本。
4年目の2008年3月20日に70歳で亡くなった我が愛する草森紳一の、11年間にわたって『広告批評』に連載されていた論考が上下巻総計1200頁の大著となって出ました。
普段から『広告批評』は読んでいましたが、この連載時は定期購読はしなかったものの気になってずっと毎月読んでいましたが、こうやって本になると改めてまた読み返してみたくなりました。あの1978、79年刊行の『ナチス・プロパガンダ 絶対の宣伝』全4巻に続いて、世界を疾風怒濤のごとく席捲した、人類史上まれに見る悪行の双壁の分析を完成させたという訳です。きっちりライフワークを完遂して逝かれるとはさすがだと思います。
悪行の双璧と書いて内心じゅくじたる思いでいます。
ヒトラーのナチスはともかく、毛沢東の中国革命は壮大な人類の希望だったはずなのですが、やはり人間の悲しい業、権力を持つと腐敗するというのは、あの革命者=毛沢東ですら免れえなかったというわけで、私がウジウジと未練たらしくしていると、虐殺されたという3000万人以上の中国人民が浮かばれません、ごめんなさい。
中国的思惟を深く探求し理解し愛し、あるいは中国思想を極め尽くしても、革命とか特定のイデオロギーからは自由だった彼だけが成し得た、一点の曇もない、これは人間擁護・人間回復の叫びであり、たった一人の闘争宣言なのです。
彼は、芸術がプロパガンダとして用いられるのを嫌悪、というより我慢ならなかったのだと思います。そういう輩を許すことができず、そいう相手に対しては断固として糾弾の手をゆるめないのが草森紳一流拳法。
レビュー登録日 2009年07月13日
推敲 (更新日) 2012年09月27日
- 感想投稿日 : 2009年7月13日
- 読了日 : 2009年7月13日
- 本棚登録日 : 2009年7月13日
みんなの感想をみる