聖域 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (2008年7月18日発売)
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感想 : 44
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週刊誌から文芸誌に異動したての編集者・実藤が、ある時偶然手にした未発表原稿「聖域」。物語が佳境にさしかかったところで、終わってしまっているこの作品のラストを読みたい一心で、実藤は無名の作者・水名川泉を捜し出すため、僅かに残された痕跡を頼りに東北へと向かう。

◆94年4月刊行された小説であるにもかかわらず(執筆はそれよりずっと前だと予想されるけど)、「新興宗教」が物語のひとつの軸として働いている。日本人にとっての「信仰」の問題。
◆東北地方の描写に、いつか車窓から見た風景を思い出し、記憶と描写を重ね合わせるように読まされた。
◆二重の「聖域」。『聖域』という本書の中で、「聖域」を扱っている二重性の面白さ。作中の「聖域」も、普通に興味深い内容。退屈させない。
◆泉を捜索する過程の疾走感。加速していくミステリー。
◆創作の虚構に惑う作家としての泉。潮来としての泉。
◆編集者・実藤の「作品を世に出す」という使命感が、途中から揺らぎ、利己的な欲求のために泉に接触しようと試みる。その際の人間の醜悪さ。

舞台として登場する青森県浅虫温泉周辺は個人的に思い入れがあるのだけど、きっと綿密に取材を重ねたのだろうなあというのが伝わってくる描写でした。

一級のエンターテインメント小説でありながら、作者である篠田氏の小説家である己をも賭した挑戦、そのプロ根性に、ほとほと感服するばかりです。文句なしの5つ★。ぜひ読んでもらいたいものだと思いました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2012年1月9日
読了日 : 2012年1月6日
本棚登録日 : 2012年1月6日

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