真ちゃんにはできのいいお兄ちゃん、さゆきにはできのいいお姉ちゃんがいる。
小さいときから「悪がき」と言われていた真ちゃん。
すぐにけんかをして、しかも勝つから「悪がき」と言われるのかな?と小2の時のさゆきは考えるけど、でもいじめられっこのテツをよく助けている真ちゃんのことを、本当に好きなのである。
高校に行かずに頭を金髪にして、バイトしながらロック活動なんて「悪がき」のまま大きくなった真ちゃんは、今でもやっぱりテツの面倒も見ているわけだ。
けれど、みんな少しずつ大人になっていく。
このまま居心地のいいところにとどまるわけにはいかないんだ。
真ちゃんが動き始める。
小さい頃はよく遊んでくれたお姉ちゃんは、いい中学校に入り、もっといい高校に行くために毎日勉強している。
さゆきにも「勉強しろ」とうるさいので、最近はろくに話もしなくなってしまった。
ある時お姉ちゃんが言うんだ。
「あたしはね、川に行くって決めたら、絶対に行かなきゃ気がすまない性分なの。だからムキになって最後まで歩いたよ。疲れていやになっても、何のために川へ行くんだかわからなくなっても、途中で引きかえすのはもっといやでね。(中略)でも、さゆきと真ちゃんって、どこでも楽しそうに遊んでたじゃない。そのへんの沼でも、たんぼでも、空き地でも。そういうところがね、うらやましかったんだ、ずっと」
高いところを目指すのは素晴らしい。
でもそれは、時にとてもつらく苦しいこと。
自分らしくあることは素晴らしい。
でもそれは、自分を甘やかすこととは違うはず。
真ちゃんは言う。
「これからさゆきがさ、まわりの雑音が気になって……親とか、教師とか、友達とかの声が気になって、自分の思うように動いたり笑ったりできなくなったら、その時はこのスティックでリズムをとってみな。さゆきにはさゆきだけのリズムがあるんだから。(中略)それを大切にしてれば、まわりがどんなに変わっても、さゆきはさゆきのままでいられるかもしれない」
自分の好きなこと、やりたいことはなんなのか。これから見つけるさゆきには、お姉ちゃんの言葉も真ちゃんの言葉も強い支えになるだろう。
それでもあきらめなくてはならないかもしれない。思い通りには生きられないことの方が多いかもしれない。
でも、自分のなかに自分だけのリズムを感じることが出来たら、居心地のいい場所から外へ歩き出す勇気が持てるかもしれない。
短い作品ではあるけれど、いろんな理由から身動きが取れなくなってしまったときに読んだら、背中を押してもらえると思う。
実際それで歩き出すことができるかどうかはさておいて、悩んでいる時間は決して不毛な時間ではないのだと。
- 感想投稿日 : 2014年12月18日
- 読了日 : 2014年12月18日
- 本棚登録日 : 2014年12月18日
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