昭和史 七つの謎 (講談社文庫)

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  • 講談社 (2003年1月15日発売)
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目次
・第1話 日本の〈文化大革命〉は、なぜ起きたか?
・第2話 真珠湾攻撃で、なぜ上陸作戦を行わなかったか?
・第3話 戦前・戦時下の日本のスパイ合戦は、どのような内容だったか?
・第4話 〈東日本社会主義人民共和国〉は、誕生しえたか?
・第5話 なぜ陸軍の軍人だけが、東京裁判で絞首刑になったか?
・第6話 占領下で日本にはなぜ反GHQ地下運動はなかったか?
・第7話 M資金とは何をさし、それはどのような戦後の闇を継いでいるか?
・番外編 昭和天皇の「謎」

ちょっと文章が読みにくいというか、頭に入りにくかったけれど、全体的に面白かった。

日本の〈文化大革命〉とは、2.26事件から戦争までの、陸軍が台頭してきた世相のこと。
2.26事件は、働いても働いても楽にならない農村の実態を憂い、それは天皇のそばにいるやつらが私腹を肥やしているからだと、陸軍の青年将校たちが起こしたクーデター。
陸軍が起こし、陸軍が鎮圧し、のちに陸軍が台頭する。
この本では詳しく触れていないけど、これは、陸軍の中の皇道派と統制派の派閥争いでもあった。
青年将校は義憤に駆られて蜂起したのだけれど、彼らの後ろにいたのが皇道派。
そして鎮圧した後力をつけて行ったのが統制派。
「私たちが陸軍の暴走を抑えます」と言って暴走を始める。

そもそも明治維新の時もそうだったけど、目的が善なら手段を問わなくてもよいという暗黙の了解が日本にあるっぽい。
そして、海軍の将校主導の5.15事件では、首謀者にあまり厳しい処分が下されなかったので、イケイケの空気になってしまった部分もある。(でも安藤大尉は最後までめっちゃ悩んだんだよぅ)
ああ、いかん。この本の内容からどんどん離れていく。
まあ、そんな感じで、陸軍はどんどん力を増していった。
天皇のために存在し、天皇を守るために戦う。それは全きの善であると。

“昭和十九年、二十年になると、日本の政治、軍事指導者も国民も、あの紅衛兵と同じように目を血走らせて、他者へのコミュニケーションを拒否していたのではないか。太平洋戦争の後期を、カタルシスで戦っただけの日本は、どうあれ中国の〈文化大革命〉やイスラム圏のジハード(聖戦)、あるいは北朝鮮の金正日体制を軽々には批判できない。”

敗戦の理由は、まあいろいろあるけれど、まず第一に個別の作戦計画はあったけれども、戦争自体をどう持って行ってどう勝つかという具体的な計画が一切なかったこと。
相手が「負けました」というまで闘い続ける。将棋の国日本。
そして、情報が武器になることを認識していなかったことも大きい。

東京裁判で陸軍の軍人だけが絞首刑になったのは、天皇の戦争責任を回避するためのストーリーを作っていく上で必要だったのが、陸軍の暴走。
そもそも真珠湾を攻撃して開戦にもって行ったのは海軍だったのに、気がつけば全責任を陸軍が負わされて、2.26の負の遺産をここで精算することになった。

さて、聞いたことはあるけど、実態のわからないM資金。
結果から申しますと、やっぱりわからないらしいのね。
戦前にあったはずの皇室の財産や、戦費としてあったはずの大金が、戦後GHQが調べてみると無くなっている。
それは多分、どこかで誰かが、いろんなタイミングで横領してたからではないかと思うけど。
敗戦のどさくさで、要領のいい人たちはちゃっかり自分のものにしたこともあるのかと。
でも、徳川埋蔵金のように「きっとある」と夢見る人が多いので、M資金詐欺が無くならないのだそうです。

そして、天皇の戦争責任。
戦前の天皇は、国民に対して責任を感じていたのだろうか?と思いました。
天皇のために国民があると教えられ、帝王学を学んでいたのだとしたら、国民に対して権力を持っている自覚はあっても、国民に対して責任を感じるような教育を受けたのかな?と。
敗戦後、初めてそのような概念が天皇に生まれたのだとしても、しょうがないんじゃないかと思います。当時の日本を考えると。
もちろん、自覚はなくても責任はあると思いますよ。

ただ、責任がある=天皇を処刑というものでもないと思っています。
私個人の天皇制への思いはありますが、それを別にして、天皇制を残したまま責任を取らせることも可能だったはず。天皇退位とか。
それをしなかった、させなかったことにはまた理由があるのでしょう。

昭和天皇が皇太子だったころ、イギリスに留学した時に、当時の国王ジョージ5世が「第一次世界大戦の戦場跡を見るように」促したのだそうです。
戦場跡のひどい有様をたくさん目の当たりにした皇太子は、天皇になって敗戦を迎え、焼け野原になった東京を見て、一体何を感じたのかなと思います。
それは戦後の天皇の行動から察することしかできませんけれど。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2017年8月11日
読了日 : 2017年8月11日
本棚登録日 : 2017年8月11日

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