上巻を読んでいた時、登場人物がことごとく金の亡者で、自分だけは得をしようともがく姿が見苦しく、興が乗らないなあと思ったけれど、少し時間を空けて頭が冷えたのか、面白くぐいぐい読めた。
まず、金の亡者とはいえ、みんな小粒。
結局世間知らずのプライドが高いお嬢様たちなので、泥をかぶってでも金が欲しい、ということにはならない。
プライドよりも世間知を優先したら、弁護士なり中立な不動産業者に相談して、簡単に大番頭である宇市の横領は発覚したはず。
登場人物の中で一番の悪党と思われた宇吉にしても、この程度の綱渡りな悪行なのよ。
相手が世間知らずのお嬢さんたちだから、そして頭は良くても気が弱い養子婿だから強気に出ることができただけ。
だって番頭から養子婿になった良吉は、下手すると宇市の下で働いていたんじゃないかしら。
女系家族であろうと、男系家族であろうと、それが問題なのではない。
お家のために個々が消費されていくシステムが醜悪なのだ。
出戻りの長女も家業を繋ぐために養子婿をとった次女も、まだ独身の三女も、それぞれに一部屋ないし二部屋をあてがわれて、外出しないかぎりはその部屋で日がな一日を過ごすことになる。
結婚するまではお稽古事以外の外出は認められない三女の雛子はもちろん、結婚しても家のことは女中たちがやってくれて、稼業は夫がやってくれている次女の千寿は、毎日何を思って過ごしているのだろう。
遺産に執着した人たちは全員思惑が外れたわけだけど、一番ショックを受けたのは、長女の藤代だろう。
長子であるというだけで何もせず遺産の大半をもらって当たり前というのは、昭和34年が舞台だとしても既に時代遅れの思想なのだ。
それすらも知らず、井の中でしか通じない世界でトップにいたつもりになっていた藤代が哀れだ。
財産より自由を求めた雛子がいちばん傷は浅いと思うけれど、結婚して幸せになれるかどうかは今後の自分次第。
自由というのはそういうことだ。
さて、嘉蔵はどういうつもりでかような遺言を残したのか。
女系家族に対する恨みつらみは当然あるとしても、自分に対して酷薄だった娘たちのことをも憎んでいたのかしら。
それとも、自分の力で生きていくよう促した父の愛情なのかしら。
生きているうちに腹を割って話せなかった親子関係が、なんにしても残念でならない。
- 感想投稿日 : 2024年1月21日
- 読了日 : 2024年1月21日
- 本棚登録日 : 2024年1月21日
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