ローマ人の物語 (24) 賢帝の世紀(上) (新潮文庫)

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  • 新潮社 (2006年8月29日発売)
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皇室の血を継ぐわけでもなければ、高貴な家の出身でもない。
たたき上げの皇帝がここまで帝国運営を全うできるとは!
時代をさかのぼってアウグストゥスに言ってやりたい。
「大事なのは血じゃないぞ」

元老院と対立しないよう気を遣いながら、最短距離でことを進める手腕というのは、見事というほかない。
基本的にローマの富裕層は、私財を公共のために使うことを名誉と思い、また義務とも思っていたので、国費を使わずに公共事業などが行われることも多かったのだが、それでも本当に必要なものを見極め、優先順位をつけ、ことに当たるのが皇帝の仕事なのだ。

ローマ皇帝の三大責務とは以下の通り
1.安全保障
2.国内政治
3.インフラ整備

そのうえでトライアヌスは善政を敷くため精力的に政務をこなす。
ちなみに善政というのは”正直者がバカを見ないですむ社会にすることにつきる”。
おお、日本の政治家も頼むよ。
トライアヌスは地元に利益を誘導するどころか、辺境にある地元に帰らずに帝国全体のための皇帝たらんとしたのだ。

それでも、治世が20年も過ぎれば、やはり自己を過信したり、または苦言を呈する者がなかなかいなかったりして、判断を誤ることもあるのだなあというのが彼の晩年。

そして、世界史は全然わからないけれど、これほどまでに法治主義で現実主義のローマ人が帝国を崩壊させていったのは、キリスト教のせいなんだなあということが、なんとなくわかってきた。

キリスト教徒について小プリニウスがトライアヌスへ送った書簡には
”キリスト教への帰依が何を意味するかには関係なく、頑迷ということだけでも罪に値する”
と書いてある。
多神教からすると一神教の頑迷さはそれだけで罪、というのは確かにあるだろう。
柔軟性を失ったら、国でも人でも発展していくのは難しいからね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年2月25日
読了日 : 2021年2月25日
本棚登録日 : 2021年2月25日

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