北海タイムス物語

著者 :
  • 新潮社 (2017年4月21日発売)
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本棚登録 : 241
感想 : 38
4

私が就職した頃、確かに遠い噂で北海タイムスの低賃金と長時間労働の話は聞いたことがあった。
あくまで噂であって、事実ではないだろうと思っていたら本当だったなんて、今更ながらびっくり。

この労働環境の苛烈さだけでも相当重苦しい話なのに、主人公がまたうじうじぐずぐずしていて、読んでいるだけでストレスがたまる。
数多く受けた新聞社の中でここにしか受からなかったというのに、やめて来年度他社を受け直すことばかりを考えている。

それなら少しでも仕事を覚えて次の入社に備えるということもなく、すぐに引っ越すつもりだから引っ越し荷物を片付けもしない。
職場になじむこともなく、サラ金で借金を重ねてまで元カノや学生時代の友人に長電話をしては見栄を張り、地下鉄に乗ることすらできなくタクシー通勤をする。
サラ金に借金をしている身で!

結局ここではない場所での、今とは違った未来を焦がれているだけで、そこへ行くために動き出すことは何一つしていない、甘ったれな若造の自意識過剰小説なのだ。
私が親なら「いい加減に現実を見ろ!」と拳骨をくれるところだが、彼はそんなことを言いそうな父親には子どもの頃から距離を置いている。

この負のスパイラルから抜け出して、仕事を、職場を愛するようになる、唐突ではあるけれど感動的な話ではある。のだけれど。

結局主人公はなぜ整理部に配属になったのか。
松田の人事だけは社長も承知していたという、その特別な理由とは。
浦さんの行動の真意は。
サラ金の借金はどうなったのか。
いろいろ未回収でもやもやが残る。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年9月3日
読了日 : 2019年8月31日
本棚登録日 : 2019年9月3日

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