サンドリーヌ裁判 (ハヤカワ・ミステリ 1891)

  • 早川書房 (2015年1月9日発売)
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感想 : 15
5

これは、ものすごく身につまされた。

周囲を見下し、孤高を保つ夫・サミュエル。
過剰な自意識。自分はこんなところにいるはずではない。
頑なに自分を守り、他人を排除する。
内心は不平・不満・怒りに満ちている。

これは学生時代の私か?
しかも私は、そのプライドの高さから、そんな自分すらも他人から隠していた。
自分の不平・不満・怒りは日記の中にだけ。

いや、年齢と共に頑なに自分の中に閉じこもっていく姿は、私の母のようにも思える。
感情が表面にあらわれることはなく、他者への興味・共感を失い、家族の心配に心を向けることはない。

いや、いや。やっぱりこれは夫婦の問題。
知らず知らずに変わっていくのは人間として当たり前。
しかし、人として大事なものを失っても気づかず、相手の些細な変質を騒ぎ立てる。
自分を棚に上げて、相手への不満ばかりがたまっていく。
そんな夫婦にならない自信、ある?

読みながら、思考は過去へ未来へと揺れ動く。
サンドリーヌもサミュエルも、どちらも相手を愛していた。
愛していたから期待もした。
期待に応えてもらえないからサミュエルは孤高の存在を演じた。
そしてサンドリーヌは。

サミュエルは、自分ができる人間だから周りを見下していたのではない。
ゆきすぎたコンプレックスが、彼を鼻持ちならないインテリへと押しやった。

なんて深くて繊細な人の心と、その闇。
なんて深くて広い愛情。哀切。
読んでよかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年6月2日
読了日 : 2017年6月2日
本棚登録日 : 2017年6月2日

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