島はぼくらと

著者 :
  • 講談社 (2013年6月5日発売)
4.02
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本棚登録 : 4972
感想 : 710
5

カバーの絵がアニメだったので、初めは青春小説か、高校生の淡い恋愛物語的な軽い気持ちであった。
霧崎ハイジというふざけた作家が登場している時までのストーリーの推理は、盗作作家をこの4人が退治する的な流れで終わる…であったが、後半、この推理は見事に覆えされる。

島で暮らすという運命を生まれながらに背負っている者、背負わなければならなくなった者にとって、島の慣習という名の部屋に閉じ込められているような感覚に陥る。そしてこの部屋の中では、閉鎖社会、友情の断絶、故郷への執着、自然との戦いなどをさまざまな問題が生み出されている。しかしながらこの部屋に閉じ込められている4人は、最後にはこの部屋から出たり入ったりすることができるようになる。そんな感覚を持つことができた。

瀬戸内海の冴島という小さな島で育った池上朱里、榧野衣花、青柳源樹、矢野新の4人は同学年の高校2年生。この4人を中心に物語は、いくつもの課題を突きつけながら展開していく。

漁師の父親を亡くし、祖母と母と女性3人の家庭で育つ朱里、網元の一人娘である衣花、リゾート開発のため父親のロハスに巻き込まれ幼いころにIターンしてきた源樹、演劇が好きで脚本家にあこがれる新。

島には高校がないため彼らはフェリーで本土の学校に通っている。ある日、彼らが帰宅するフェリーで霧崎ハイジという作家に出会う。霧崎は、冴島に存在するという『幻の脚本』を探すために、Iターンしてきたのだが、偽の『脚本』が見つかるとそそくさと戻ってしまう。

この本当の『幻の脚本』が、本作終盤の忘れかけた時に、再び展開し始める。そして、この脚本は実は、過去において重大な意味を有していることがわかるのである。

また、冴島は地元活性化のための多様な取り組みをしており、移住者を多く受け入れている。ウェブデザイナーとして、朱里の母の会社『さえじま』の通販サイトの管理をしている本木真斗もIターンしてきた。また、冴島はシングルマザーの受け入れにも積極的で元オリンピック水泳選手の多葉田蕗子も冴島で未菜を出産してきる。
蕗子の育児から医療の問題などを考えるきっかけになる。

そんなストーリー展開から後半、朱理の祖母の友人探しから環が出てきたり、衣花と朱里の友情であったり、地域活性デザイナーの谷川ヨシノの思い出あったりと、そしてあの『幻の脚本』も明らかになり、展開が展開を重ねるようにパタパタとそれぞれが繋がっていく。

最後は朱里は看護師となり無医村の冴島に戻ってくるが、「島ありき」、「島から離れることができない」ということではなくて、「島とともに」という穏やかな感覚で読めるところが読んでいて気持ちがいい。

また、本作が面白かったと感じるもう一つの理由が「スロウハイツの神様」のあの赤羽環の登場である。「スロウハイツの神様」のスピンオフ感もあり、全く予期しなかった環登場の際に、ワクワク感とドキドキ感が加わった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年7月29日
読了日 : 2021年7月29日
本棚登録日 : 2021年7月29日

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