麦の海に沈む果実 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2004年1月16日発売)
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「黄昏の百合の骨」を読む前に、再読。私が読んだはじめての理瀬シリーズ。

前回の読後、もしかしたら順番が間違っていたかと思いながらも、幻想的で不思議な世界観と独特の展開に圧倒されながら、犯人探しに奔走し、この作品に呑まれていく。

三月以外の転入生は破滅をもたらすといわれる全寮制の学園。二月最後の日に来た14歳の主人公・水野理瀬に学園の生徒たちの好奇の目があつまる。閉ざされた不気味な学園で起こる失踪事件。「交霊会」と称する校長主催のお茶会。無くなった「麦の海に沈む果実」の謎の本。何もかもがすごく不気味なのに、ハマってしまう。

学園の所在地の説明はないが、湿原、針葉樹林、太平洋、雪の言葉が綴られており、北海道の東側、何となく釧路湿原のあたりを連想する。

まず、学園で突然、石像の陰から白い顔の少年が飛び出してくる、そして、学園の校長が大柄な女性(実は男性)…これらの描写にいきなり圧倒され、不思議な、幻想的な世界に引き込まれていく。「何かが起こる」と思い読み進めるため、校長もファミリーの聖、黎二も、ルームメイトの憂理も、1歳年上の転入生・ヨハンも皆んなが怪しく思える。

人間誰しも、過去を振り返る事がある。記憶を振り返り、忘れたつもりでも、過去の出来事や周りの人間に縛られていることも多く、本作でも「記憶というものはゆるやかな螺旋模様を描いている。もうずいぶん歩いたなと思っていても、螺旋階段のように、すぐその足の下に古い時間が存在している。身を乗り出して下に花を投げれば、かつて自分が歩いた影の上に落とすことができるのだ。」の言葉が何度もきさいされ、そのことを匂わす。そしてこの言葉が何かを知らせるように、理瀬は過去の記憶の一部を本作では無くしていた。

記憶を無くしている理瀬に襲いかかる失踪事件や殺人事件が、理瀬の精神を攻撃し、精神を病んでしまう。そんな理瀬が最後に記憶を取り戻した時、「ええ、パパ何もかも」と描かれた言葉の意味が一瞬分からなくなる。

何度読んでも、この展開を予測できる人がいるのだろうか?と思ってしまう。
なぜなら序章で、「これは私が古い革のトランクを取り戻すまでの物語である。」で始まっているからだ。そう、この物語は理瀬がトランクを取り返すための策略的な物語ではなく、結果として、トランクが無くなった理由が最後に分かるという展開であった。

そして、この独特な不思議世界が続く、シリーズを見てみたくなる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年7月24日
読了日 : 2020年5月15日
本棚登録日 : 2020年5月15日

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