ホワイトラビット

著者 :
  • 新潮社 (2017年9月22日発売)
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感想 : 537
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因果応報。自業自得。自分が今まで行ってきたことが、自分にのしかかって、初めて今まで自分がしてきたことが酷いことであったと自覚することになる。と、いうのがこの物語の犯人・兎田孝則である。

ずっと読んでみたいと思っていた作家の作品であったのだが、物語が時系列に進んでいかないため、解決への方向性を推測できず、言葉1つを読んで『もしかして、前やにおわすような描写があったのか?』と、思うことが多く、結果的に3回も読んでしまった。

本作は、『白兎事件』の籠城事件の主犯・兎田孝則とその妻・綿子、空き巣で探偵の黒澤、黒澤の空き巣仲間の中村と今村、籠城された佐藤親子、コンサルタントの折尾豊(通称オリオオリオ)、誘拐ベンチャー企業の社長・稲葉そしてSITの夏之目がおさえておきたい登場人物である。

また、本作では『レ・ミゼラブル』と『オリオン座』が物語構成のKeyとなっている。

本文での空き巣・今村の言葉で『レ・ミゼラブル』を「あの小説って、ところどころ、変な感じなんですよね。急に作者が『これは作者の特権だから、ここで話を前に戻そう』とか、『ずっと後に出てくるはずな頁のために、ひとつ断っておかねばならない』とか、妙にしゃしゃり出てきて」とあり、この描写に吹き出してしまう。なぜかは、本作を読めば明らかであるが、本作ではいたる所で、作者の特権が伺えるのだ。ただ、これが本作の特徴であるのか、作者の特徴であるのかは、私がこの著者の作品を初めて読んだのでわからない。

本作においては、この『レ・ミゼラブル』手法あるいは『作者の特権』手法は明らかに特徴の1つで、普通は読者が行間を読むところをあえて、作者あるいは作者の代わりの登場人物が自分の立場で行間を説明している。

そして、もう1つの文章構成のKeyに『オリオン座』がある。オリオン座のベデルギウスと地球との距離は640光年である。もし、ベデルギウスが爆発すると太陽が2つあるような明るさになるそうだ。ただ、ベデルギウスがたとえ今日爆発しても、私はそれを知らずに死んでいく。なぜなら爆発から640年経たないと爆発したことが分からないからだ。
これがまさしく本作の展開の手法で、「すでに起きてきる出来事も、時間がずれないと見えないわけだ」と、さりげなく手法の説明がされている。この『オリオン座』手法は時系列に物語が進んでいくのではなく、現在の描写後に現在に至った過程の説明が後追いで描写されている。

この2つ『レ・ミゼラブル』手法と『オリオン座』手法が、本作の文章構成のKeyであり、私の場合は、この構成の理解のために3回も本作を読むことになった。ただ、これを知ることで、展開、結末を無理なく理解することができた。


偶然ではあるが、今年の初めにテレビで、冬を代表するオリオン座の「ペテルギウス」が昨秋から急に明るさが3分の1になったと聞いた。ペテルギウスはもともと明るさが変わる変光星ではあるようだが、いつ超新星爆発が起きてもおかしくないようである。爆発の前兆かもしれないとのことだか、万一、私が生きている間に640年前の爆発が地球に届いたならば、その時、私は本作を必ず思い出しているだろう。

『レ・ミゼラブル』、『オリオン座』の説明は、本作の手法のためだけの登場て話はなく、これらの意味するところが、名言として登場する。例えば、SITの夏之目の亡くなった娘・愛華が残した「海よりも壮大な光景がある。それは空だ。空よりも壮大な光景がある。それは、…」は、オリオン座、つまり宇宙に引っ掛けて出されているようで印象的であり、私には名言の一つとして記憶された。

星座と言われても、夜空を見上げて分かるのは多分、「北斗七星」くらいで、今まで関心がなかった。そのため本作で「オリオン座」とそのギリシャ神話の『サソリが苦手なオリオン』や、最後でもチラっと、書かれている『月とオリオンの物語』にそそられ調べることで使うことがあるかはわからないが、知識が増えたので、読後の満足感はかなり高い。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年8月29日
読了日 : 2020年8月29日
本棚登録日 : 2020年8月29日

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