辛くて、辛くて、生きていく気力すら失った女がいる。女は、憎くて、憎くて、絶対に許せない男と一緒にいる。どうしても許せない男に「私が死んで、あなたが幸せになるなら、私は絶対に死にたくない」、「あなたが死んで、あなたの苦しみがなくなるなら、私は決してあなたを死なせない」、「だから私は死なないし、あなたの前から消えない。だって、私がいなくなれば、私は、あなたを許したことになってしまうから」
ゾッとするほど、恐ろしい言葉。でも、切なくて、悲しくなった。これもある種の愛であり、こんな愛し方しかできなくなってしまった過去の過ちに寂しさを感じてしまう。この二人はいったい、どんな人生を歩んで行くことになるのだろうと考えてしまう。二人の未来を想像し悲しくなる。心を抉るような愛憎の物語。
物語の始まりは、隣家の幼児殺害事件。この事件をきっかけに明らかになる過去の犯罪。事件がなければ、マスコミや警察に過去の犯罪を知られることなく、二人は過ごしていたはずである。
2017年6月、性犯罪に関する刑法が110年ぶりの法改正があった。だか改正後もなお、多くの課題が残っており、2020年に見直しがされるはずであったようであるが、実現はされていない。
また、日本の性犯罪に関しては、罪が成立するのに要求される要件が高く、同意のない性行為をされたことが明らかでも、「暴行」「抗拒不能」などの要件が証明されない限り、加害者は罪に問われない。警察に届けたとしても約6割が不起訴となるなど、被害者は泣き寝入りしているようである。本作の場合は、懲役3年、執行猶予5年の刑が言い渡されてはいるが、その後、加害者は普通に生活をしている。
刑が施行されても、被害者の負った心の傷は晴れるものではないなぁ…と、本作を読むまでは思っていた。
特に本作でも主人公で加害者・尾崎俊介の野球部後輩の藤本尚人のように親の会社ではあるが藤本建設の取締役となっており、何の制裁も受けていないような、感じていないような者もいる。おそらく加害者のほとんどは、自分の犯した罪を大きさを認識していないかもしれない。そんなことを匂わす描写が本作にもある。
そんな中で、尾崎俊介は、かなこに対する罪の意識を忘れたことがなかった。
過去の事件とともに生きている、事件からいつまでも逃げ続ける俊介とかなこ。
憎しみ、後悔から始まった苦しい愛もあることを本作を読んで思い知らされた。
「悪人」同様に読んでいる時よりも、読後に訴えかけてきた作品であった。
映画では、2013年にかなこ役を真木よう子、尾崎俊介役を大西信満で上映されたようである。
- 感想投稿日 : 2021年1月9日
- 読了日 : 2021年1月9日
- 本棚登録日 : 2021年1月9日
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