朝が来る

著者 :
  • 文藝春秋 (2015年6月15日発売)
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本作を読み進めるにあたり、予備知識として調べてみた。
2015年度(平成27年)のデータの出生動向基本調査において、不妊に悩むカップルは5.5組に1組となっている。そのうち何らかの不妊治療を受けている人は50万人もいるようである。
しかもその費用はは高額で、人工授精が1回当たり約1万円、体外受精・胚移植が約30 万円、顕微授精が約40万円くらいようで、誰も彼もが不妊治療はできない。

対して、養子縁組においては、親元で育つことができない子どもたちは約45,000人。しかしながら、その約80%が乳児院や児童養護施設などの施設で育ち、施設養子縁組あるいは里親制度は20%にとどまる。
「里親制度」とは、育てられない親の代わりに一時的に家庭内で子どもを預かって養育する制度で、里親と子どもに法的な親子関係はなく、実親が親権者となる。里親には、里親手当てや養育費が自治体から支給される。
「養子縁組」は、民法に基づいて法的な親子関係を成立させる制度であり、養親が子の親権者となる。また、養子縁組にも2種類あり、普通養子縁組は跡取りなど成人にも広く使われる制度で、特別養子縁組は特に保護を必要としている子どもが、実子に近い安定した家庭を得るための制度である。

本作はまさに不妊に悩む夫婦が、特別養子縁組により子供を授かる話と子供を手放さなければならなかった物語りで、まさに、5.5組のうちの1組(18%)でその20%の夫婦の話である。

栗原清和、佐都子夫妻は子供を授かることができないために、6年前に特別養子縁組で、息子・朝斗を迎える。
親子3人で穏やかに暮らしていたある朝、息子の無味の親・片倉ひかりと名乗る女性から電話があり、お金を要求される。

血の繋がりにより親子の絆が生まれるのではなく、一緒に生活し共に人生を積み上げることにより生まれる絆があるということに気づいた。
産んでくれた親と成長を支える親は、共に子供に対して親としての責任を自覚しなければならないと考えさせられる。
私の場合、親のありがたさは、自分が独立したときにようやくその大変さと責任を理解することができた。もっと、早くに理解できる方もいるであろうが、本作の高倉ひかりは、この先、親の責任というのを理解できるのであろうか?と、疑問になる。

子供は思春期、反抗期を迎え、自分の中でその期間に感じる感情を自分なりに受け止め、消化して成長していくと思っている。この時期、自分の意思を整理し理解することがいかに難しいのだろうと悩んだものだ。消化しきれない感情をぶつけた後の感情に苛まれることもあった。自分のことでいっぱい、いっぱいのこの時期に、自分のこと以外を考えることができるのであろうか。若すぎる出産はそれ故にねじれて、片倉ひかりの人生が逸れていってのではないかと思わずにはいられない。子供を手離す葛藤があることは理解できるものの、やはりその行動には同意ができない。

そして、片倉ひかりの人生を考えると、栗原清和、佐都子夫妻の人生、しいては自分の人生がどれだけ幸せかということを改めて感じる小説であった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年9月15日
読了日 : 2020年9月15日
本棚登録日 : 2020年9月15日

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