世界は分けてもわからない (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社 (2009年7月17日発売)
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どこからどこまでが鼻で、どこからどこまでが口か、その明確な区別は存在しない。便宜的に「鼻」、「口」と呼んでいるそれらのものは、すっぱりと切り分けられるものではない。一対一で部分と機能は対応しているように思いこみがちだが、現実には部分というものは存在しない。体は細胞のグラデーションである。受精卵がすこしずつ色を変えながら分裂し臓器はその色の違いによって区別されるが、起源はみな同じである。一つ一つの細胞を取ってみれば、隣り合った細胞はわずかに異なっている。そして細胞さえも、部分ではない。細胞の内外では常に物質が動き回り、いまここにあったものはあちらにあったり、あるいはなくなったりしている。また新しい物質がやってきたりもする。動的平衡。この流れを無視して、ついに世界はわからない。世界は流れている。でも一方で、分けないことには何もわからない。ほんのわずか知るために、生物学者は今日も偉大な努力を重ねている。彼らが見せるなにものかがたとえ幻であろうとも、僕はワクワクせずにはいられない。世界にとってみれば矮小で、しかし僕にとってみればそれほどまでに偉大な功績を、生物学は確かに残してきたと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書
感想投稿日 : 2012年6月14日
読了日 : 2012年6月14日
本棚登録日 : 2012年6月14日

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