武蔵野七十字病院で対立する二人の若き医者。福原は副院長かつ天才外科医で信念は絶対に諦めないこと。一方、桐子は治る見込みのない患者に死を選択肢として説くことで有名な「死神」と呼ばれている。2人の医師を通して、難病にかかった3人の患者を通して、死生観が問われる医療ドラマ。
初著者作品。
ブクログ文庫ランキングで本作を知り、表題名とあらすじを拝見、興味がピークに達したため手に取った。
(文庫だったが電子書籍しか選択できず…)
私は医療系作品が滅法弱い。この弱いは苦手ではなく脆いのだ。人間にとって不可避でライフエンディングとなる死。今までも南杏子、中山裕次郎作品で『生きることと死ぬこと』を様々なケースで目の当たりにしてきた。その度に私は自身の死生観と向き合い、生きる意味を、生かされている意味を、理想の命の終い方・終え方を幾度とイメージしてきた。
死を間近にして気付くこと。
ある者は死んだように生きてきた最期に自分らしさを貫き、ある者は医師になる志を絶ち延命措置を拒み死を受け入れ、ある者は医師から患者へ立場が代わり患者にとって理想の医療を見い出し、やがてそれぞれ命を終い遂げていく。
勿論、その過程は壮絶だ。生きたいと願うからこその未練がましさがあり、容赦なく襲い掛かる病魔の症状が克明に綴られている。読者が最も目を背けてはいけないパートである。
一方で、対立する医師の福原と桐子、その2人の仲裁に翻弄する音山といった元医学部同級生3人の関係とキャラクターがもう一つの見どころである。
患者を治すために諦めることなくあらゆる手法を尽くそうとする福原。
迫りくる死を見据えて最期の時間を自分らしく生きられるよう患者へ緩和ケアという名の尊厳死を勧める桐子。
患者に寄り添い共に迷い理想の医療を模索する音山。
そして暗に読者へ問うてくる。
「あなたが死目前の患者だったとして、どの医師に命を託したいですか」と。
【最後の医者は桜を見上げて君を想う】
ライトな表題名だが内容はヘビーな作品であった。
命ある限りチャレンジしていたい。
大切な人たちにとって有益に命を終いたい。
ここ数年来の私の死生観という名の願望。
作中に登場する患者たちの心中など、同じ境遇下に無い私には到底計り知れないのだが、共感できるところが多々あった。
いずれ私にも訪れるその時の直前にでも、回想する猶予が与えられるならば答え合わせをしたいと思う。
- 感想投稿日 : 2022年7月5日
- 読了日 : 2022年7月5日
- 本棚登録日 : 2022年7月5日
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