愛しすぎた男 (扶桑社ミステリー ハ 8-7)

  • 扶桑社 (1996年10月1日発売)
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感想 : 7
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アメリカの作家パトリシア・ハイスミスの長篇ミステリ作品『愛しすぎた男(原題:This Sweet Sickness)』を読みました。
『見知らぬ乗客』に続きパトリシア・ハイスミスの作品です。

-----story-------------
ニューヨーク郊外の紡績会社に勤める技術者デイヴィッドにはささやかな夢があった。
「愛する人アナベルと結婚したい」という夢。
しかし、あまりにも熱烈な彼の想いは、現実を離れ、一人歩きを始めていた。
彼は、週末ごとに下宿を出て、誰もしらない一軒家で過ごしながら、愛する人アナベルとの結婚を夢見ていたのだが…。
仮想世界での「恋愛」が破綻したとき、デイヴィッドの破滅がはじまった!
いま話題の「ストーカー」(追跡者)の世界を内側から描いた名手ハイスミスのノンストップ・サスペンス。
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1960年(昭和35年)に刊行されたパトリシア・ハイスミスにとって6冊目となる長篇作品です。


貿易会社で働くデイヴィッド・ケルシーは、優秀な技術主任だった… 下宿の女主人マッカートニー夫人からは理想的な青年として敬愛されていた、、、

散歩の帰り、アンディという店に立ち寄ると、同じ下宿に住む女性エフィから声をかけられるが、デイヴィッドは全く関心を示さない… なぜなら彼にはアナベルという美しい女性しか目に入らないからなのである。

アナベルは既に結婚していたが、デイヴィッドは週末になるとウィリアム・ノイマイスターという偽名で手に入れた郊外の秘密の家で過ごし、アナベルとの結婚生活を夢見ていた… やがてアナベルに子どもができたという知らせを受け取るが、それでもデイヴィッドは幾度も手紙を書き、電話をかけ、ついには彼女の家へ訪ねていく、、、

アナベルの夫ジェラルドは、こうしたデイヴィッドの行為にうんざりしていた… ある週末、デイヴィッドが秘密の家で過ごしているとジェラルドがやってきた……。

デイヴィッドは、行き場のない状況に追い込まれる一方で、ますます妄想の世界に入り込んでいく……。


頭脳は優秀で聖人と呼ばれるほど生真面目だが、自己中心的に考え、思い通りに女性を支配することしか考えていないデイヴィッド、一方で、優柔不断で曖昧な受け答えをするアナベル… まさに現実的にありそうな設定ですよね。

60年以上前の作品ですが、ストーカーという、非常に今日的な題材が扱われていることに驚きましたね… 冒頭から緊迫したサスペンスが展開され、人間関係におけるちょっとしたズレが原因で、心の奥底に押し込めていた妄想が、ゆっくりと現実世界に溢れ出し、じわじわと恐怖の淵に追い込まれていく展開が愉しめました、、、

主人公・デイヴィッドの自己中心的な行動には共感できないのですが… デイヴィッドの視点で進行する物語に、どんどん惹き込まれていき、まるで自分自身に起こっていることのように読み進めましたねー このあたりは、パトリシア・ハイスミスの巧さなんでしょうね。面白かったです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: <読む>ミステリ(海外)
感想投稿日 : 2022年6月19日
読了日 : 2022年6月19日
本棚登録日 : 2022年5月15日

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