ドキュメント裁判官: 人が人をどう裁くのか (中公新書 1677)

  • 中央公論新社 (2002年12月1日発売)
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感想 : 25
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多数の裁判官・元裁判官へのインタビューをもとにした、読売新聞の連載記事の書籍版。

まず取材のスタンスがよかった。この手の本にありがちな「変な判決」を揶揄する内容でなくて読んでいてストレスがない。読売新聞ゆえだろう。
その上で普段語られることのない裁判官の胸のうちを覗き見ることを目的に掲げ、一人一人の裁判官の葛藤や信念を描く。
簡裁や破産手続き、持ち回り決済などの典型的でない訴訟手続きについて触れられていた点も、現場の現実を知れてよかった。当事者の救済のためにはとにかく迅速さを追求すべきときもあるし、本人訴訟など公平性から一段降りて柔軟に接すべき時もあるだろう。
最高裁への上告も、その実大半は上告理由をこじつけたもの、というのは面白かった。

そして時代感もよかった。本書に掲載された事件は多くが90年代のものだが、オウム事件や池田小学校事件、危険運転の厳罰化の契機になった東名高速二児焼死事件など特に刑事事件は重要なものばかりでその点でも勉強になった。
また裁判員裁判の導入前夜でもあり、一票の格差や非嫡出子訴訟などで違憲判決が出始めた時期でもある。現在の司法を考える上でも、90年代は興味深い時代だったといえるだろう。

総じて、20年以上前の新聞コラムだがいま読んでも面白かった。2002〜2022年ぐらいの射程で続編をやってくれないだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年5月12日
読了日 : 2023年5月11日
本棚登録日 : 2023年5月11日

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