鼓動―警察小説競作 (新潮文庫)

制作 : 新潮社 
  • 新潮社 (2006年1月30日発売)
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感想 : 24
5

新潮社・編『鼓動 警察小説競作』新潮文庫。

たまに古本屋で購入するなら、古くて少し珍しいアンソロジーが良い。様々な作家の傑作短編を僅かな散財だけで楽しめる。本作は、大沢在昌、今野敏、白川道、永瀬隼介、乃南アサという5人の作家による5編収録の警察小説アンソロジーである。

乃南アサ以外の4人の作家の短編が甲乙付け難いくらい面白かった。

大沢在昌『雷鳴』。珍しい『新宿鮫』シリーズの短編。雷鳴轟く雨の晩に酒場を訪れた一人のやくざ者。ウイスキーのお湯割りグラスを傾けるやくざ者の後に酒場の扉を開けて入って来たのは……短編ながらしっかりしたプロットで最後の最後まで楽しませてくれる、これぞハードボイルドといった逸品。

今野敏『刑事調査官』。定年間近の谷平史郎刑事調査官が女性キャリア心理分析官の島崎優子と共に2つの擬装殺人事件に挑む。難事件の捜査を通じて後輩を育てようとする谷平史郎のべらんめい口調が心地よく、島崎優子の鋭いプロファイルによる事件解決の課程も面白い。安心して読める秀作。

白川道『誰がために』。涙無しには読めない、愛娘を凌辱された挙げ句に惨殺された過去を持つ2人の父親の苦悩と葛藤を描く傑作。犯人の少年たちに極刑を願うも、そこに立ちはだかるのは少年法の壁……元刑事の朝河信三が法律事務所を訪れ、弁護士の矢口に世間を賑わせている64歳の老人によるやくざ者殺害事件を教唆したのは自分であると告白する……事件の背後にあるのは……最後に感動の……

永瀬隼介『ロシアン・トラップ』。ハードなピカレスク警察小説。永瀬隼介の作品は殆ど読んでいたが、その中でも群を抜いて面白かった。警察官の妻として官舎に暮らすうちに強い閉塞感を味わっていた石田勢津子は偶然再会した高校時代の恋人のトオルと不倫に走る。中古車販売を営むトオルには裏の商売があり、勢津子はロシアンマフィアのイリヤ・ワシリーに引き合わされる。警察組織の中に巣くう悪と転落していく淫乱女の勢津子……

乃南アサ『とどろきセブン』。最後の最後に軽いノリの警察小説が……つまらん。しかも、一番ページ数を割きやがって。

本体価格629円(古本110円)
★★★★★

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本
感想投稿日 : 2020年7月1日
読了日 : 2020年7月1日
本棚登録日 : 2020年6月30日

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