一瞬の風になれ 第三部 -ドン- (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2009年7月15日発売)
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“一瞬の風になった”と思いました。
100mの決勝。10秒ちょっとの時間。
とても躍動感のある文章に、本当にトラックで大会を観戦したように興奮して、幸福でした。

ラストは、大会はあと1日残した状態で終わるのですが、200mの決勝を観たかった。もし続きが描かれるなら、佐藤さんは誰を勝たすのか。気になります。めちゃめちゃ。

朝井リョウさんが言ってたラスト1行も、私は正直あと1日が描かれると思って読み進めていたので、その1行と正直思わなくて、「えっ?終わり?」と、軽くショックを受けたのですが、それを踏まえてもう一度ラスト1行を味わいました。

気になったセリフをいくつか。

新二を指導している三輪先生に恩師が、
「高い目標を立ててやれ。引っ張りあげてやれ。尻を押してやれ。それが指導者だ。不可能を可能にしてやれ。夢を持て。お前が1番大きな夢を持て」

恋愛禁止の部活内で、新二が気持ちの折り合いのつけ方に迷っていた時、同じくチームメイトが、好きな女子が大会で負けて泣いている時の立ち振る舞いを見て
「色々な気持ちがある。色々な人へ向かう気持ちがある。相手に差し出す気持ちがある。隠して見せない気持ちがある。相手に届こうと届くまいと、人に見えようと見えまいと、思う気持ちはかけがえがない。重い。美しい。俺は俺の思いを抱えていればいい。今はそれでいい。それだけでいい。」

400×4リレーで、「関東に行こう」と言った新二の失敗で勝ち進めなかった時
「俺は言葉について考えていた。(略)自分の気持ちをできるだけ相手に伝えたいと思う。自分が何か言うことで、何かを変えられると信じている。(略)何か言葉を口にする前に、自分のすることをとことんまで見つめたいと思う。自分のできること、しなければならないこと。「関東に行こう」と言った俺の言葉にカケラも嘘はなかった。だけど全身全霊をかけた重い言葉にならなかった。もうこんなことはしたくない。
 人生は、世界は、リレーそのものだな。バトンを渡して、人とつながっていける。1人だけではできない。だけど、自分が走るその時は、まったく1人きりだ。誰も助けてくれない。助けられない。誰も替わってくれない。替われない。この孤独を俺はもっと見つめないといけない。俺は、俺をもっと見つめないといけない。そこは言葉のない世界なんだ−−−たぶん」

生きていく上でも引っかかるようなセリフが沢山ありました。

特に若い子に読んで欲しい。

良い読書体験が出来ました。読んでる間、チームメイトになってまるで一緒に陸上をしているように、成長を見守る親になったように。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年9月12日
読了日 : 2021年9月11日
本棚登録日 : 2020年8月7日

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