はじめての言語学 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社 (2004年1月21日発売)
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本棚登録 : 1085
感想 : 108
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言語学ときいて心ときめくひと向けの本
心ときめくということは私と同じく言語学をやることの地味な大変さを知らない言語学素人なので、本書を読んで言語学を体系的に学ぶことの漠然としたイメージを更新しよう。

本書の良いところはソシュールがどうとかチョムスキーがどうとか、語用論!音韻論!みたいな体系的な説明は一切放棄しているところだと思う。
安易にわからせた風な感じを出す雑学系の本はよくあるが、本書はそういったアンフェアな態度でなく、むしろ著者自らが体系的な説明には立ち入らないことを明言している。

私は学問をやるならまず学問史を入口として、その学問の発展、展開を通じて思考のプロセスやテーマを掴むことで前提を共有するのが大事だという持論をもっていて、他の本のレビューでも主張しているのだが、そういった歴史的な縦の展開は、何をその学問が対象としているかという横の範囲が定まっていることが前提として必要になる。
本書は、そういった言語学の中身ではない外枠を示すことで、言語学の入口まで連れていってくれる。この点で入門書というより啓蒙書のような導入として優れていると思う。神学と宗教学の区別がつかない人や、語学と言語学の違いを理解していないひとはどうやらこのレビュー欄にもいるようだし、こういう態度は大事だろう。社会科学は特にここを共有しないと議論が噛み合わなくなる。

こういう本は案外少ないように思う。中身に触れずにその学問を面白く説明するのは難しいから仕方ない。
この本は、「言語学でいうことばとは何か」とか、「言語学ではこういう意味でこの語を使う」とか、きっちりと言語学のルールを示しつつ、ポップでシニカルな語り口でその難しさを乗り越えていて、単純に読み物として面白い。

そして学問的な態度がよく表れているのもよい。本書では、「言語学は美しいことばというような価値判断はしない」とか「言語学はどのことばが優れているという価値には立ち入らない」というように、言語という社会的な現象を解明するのが言語学であり、価値判断はテーマでないことに度々言及する。
価値というのは宗教であり、学問(科学)ではない。これは学問をやっていれば大前提になるが、学問の入口まで導く「はじめて」の一冊としてちゃんと示してあるというのは大事なことではないかと思う。

ただ、さらに学びたい人のためにと勧められている本がけっこう古かったりするのが唯一残念だった。
学問的にあまり過去の内容が更新されないのだろうか。そのあたりも言及してくれると安心してその本も購入できたのだが。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年12月3日
読了日 : 2020年12月2日
本棚登録日 : 2020年12月2日

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