私家版鳥類図譜 (KCデラックス モーニング)

著者 :
  • 講談社 (2003年3月18日発売)
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感想 : 32
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以前仕事で学生向けのコンテストを実施したことがあった。写真やイラストを利用した広告を募集したのだが、多くの学生さんが参加しやすいように、と募集要項を決めるときに、なるべく緩やかに広い内容にした。媒体もなるべく自由にと、広告のテーマは与えるけどそれは雑誌やポスターでも構わない、自由な発想で媒体も決めてほしいと。

どうしようかな学生さんから、「ビル全体をラッピングした広告です、納品はどうしましょうか?」なんて言われたら、そんなでっかいものオフィスにおけるかな~とか、「体全体にボディペインティングをして広告にしたんですけど写真でいいですか?自分が出向けばいいのでしょうか?」なんて問い合わせとかあったら、それって質問っていうよりもやや緩やかな攻撃じゃん?!

なんて。ふふふふん、楽しみだなぁどんなムチャがくるんだろう。


ところが。
実際にあたしが受けた質問と来たら、「できれば媒体を決めてもらって、雑誌なら雑誌にして欲しい。デザイン系の雑誌なのかビジネスなのか、実際の雑誌だともっとイメージしやすいんですけど」「何月号で訴求先は具体的にどこでしょうか」「サイズをできれば1つにしてきめてほしい」

あたしは自由にしたほうが想像力を発揮できるのかと思ったんだけどその逆だった。みんなが寄ってたかってあたしから引き出そうとしたものは制限と決め事。ちょっとビックリ。そんなもんなのかな?自分でこうこう、と仮定をたてて、それに対してはこれが効果的、そういったアプローチって逆に、難しいんだろうか?


なんでそんなことを考えていたのかと言うと、今日のマンガがすべて、鳥縛りだったから。ただしその定義は広くて、怪鳥から天使まで、およそ羽があるものは全部含む~~みたいな感じだったんだけど。鳥にまつわる、というテーマで一番あたしが気に入ったのは最後の「鳥を見た」。ここでは少年たちのちょっとすれ違い気味の友情?のようなノスタルジックなエピソードが語られるんだけれど、病院でほとんど外出できない少年が、鳥を見に行きたいけれど怖い、憧れと恐怖が自由に対するそれなのかと思ったら軽く反転したちょっとしたサスペンスに、という転換が美しかった。

縛りがあるというのは時に、集中と精査を生むのかもしれない。作者もそうだろうけれど、実は読者側も。こういったテーマなのですよ、この制約の中でこう知恵を絞ったのです、といわれれば比較もしやすいんだろう。

ま、件のコンテストもそうだ。もしボディペインティングとビルラッピング、ゲリラライブとか一気に提出されちゃったら、さすがに収拾がつかなかったかもしれない。結局は架空の雑誌を決めて、何月号で特集はナニ、ターゲットはこうこうで発行部数はいくらいくら、書店でも売られていて、その表4の広告に。と、決めざるを得なかったあのコンテストをあたしはぼんやりと思い出していた。

うーんいやでもさ、本当にそれでいいのかな?
昔コマーシャルで、日本の算数は1+1の答えを聞くけどイギリスの算数は□+□=12とかしてあって、何個も答えを考えるんだ、ってきいて、あーそのほうがずっといいんじゃないかって思ったことがある。想像力って、大事じゃないのかな。かまぼこが海を泳ぐんだって思う子供ばっかりが世の中にあふれて、君と僕だけでセカイが閉じちゃって、いつか「あ、ごめん、こんな簡単に人が死んじゃうなんて思わなかった、でも大丈夫でしょ、ライフをいれたら」なんて真顔で血まみれのナイフを持った誰かに言われたら、あたし、泣くぞ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: よしよし、次は?
感想投稿日 : 2013年6月28日
読了日 : 2013年6月28日
本棚登録日 : 2013年6月28日

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