古道具 中野商店 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2008年2月28日発売)
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本棚登録 : 2988
感想 : 330
4

雑多なものが所狭しと詰め込まれた空間って、
無条件にときめいてしまうたちなので、
古道具屋という舞台設定にまず惹かれた。

だからさあ、が口癖の適当店主中野さん、
中野さんのお姉さんで芸術家のマサヨさん、
少々ぼんやりしたアルバイトの男の子タケオ、
中野さんの愛人?らしき“銀行”ことサキ子さん、

古道具屋関係の人達は
ちょっと浮世離れしているというか、
変わっている。
変わっている、というのが第一印象だ。

でも、物語を読み進めると、
彼らの人間くささを知ることになる。
このリアリティと非現実感のバランスが絶妙だ。

ヒトミとタケオのじれったい恋愛に、
もしくはマサヨさんの大人の恋愛観に、
はたまた中野さん(中年オヤジ)の愛嬌に、
あるいはサキ子さんの心の変化に、
きっと誰もがどこかで自分の経験を重ね合わせて、
はっとすることがあるんじゃないだろうか。

誰もが強さと弱さを持っていて、
意思や感情を持っていて、
生きている一人の人間という感じがして
すごくよかった。

主人公であるヒトミの人間らしい感情は、
主人公であるが故に1番見えづらいんだけど、
ラストの“悲しかったよ”で全部もっていかれた。

主人公に自分を投影しながら
読むケースがあると思うけど、
ヒトミがひとりの独立した人間だって、
このシーンで強く感じた。

川上弘美さんの作品は『某』とか『神様』とかを
読んだことがあって、
ちょっとファンタジックな世界観の中で、
だからこそより克明に現実が見えてくる、
みたいな印象だったので、
それと比べると
舞台設定に現実感が強いなと思ったけど、
SFもファンタジーもなしに
この作風は成立するんですね。

『某』が好きだからこそ敬遠してしまっていた
『センセイの鞄』も読んでみようと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年9月19日
読了日 : 2022年9月18日
本棚登録日 : 2022年9月18日

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