虞美人草 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1951年10月29日発売)
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本棚登録 : 1950
感想 : 137
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漱石の凄まじい教養と文章力に圧倒される。難解な表現は多いものの、軽快な会話劇も同時に展開されていくので思っていたよりスラスラと読み進めることが出来た。

にしても大バッドエンドである。
登場人物がそれぞれに背負っていた業は最後に全て藤尾に押し付けられ、藤尾は死んだ。彼女だけが自己中心的?小野も井上親子も甲野も宗近も糸子も濃淡あれどそれぞれ自己中心的ではないか。優柔不断な上に姑息な手段で縁談を断ろうとした小野、小野の気持ちなんぞ確認もせず東京へ出てきて世話になる気満々の井上親子、分かったようなことばかり並べ立てる宗近(彼がわざわざ時計を壊したのは自分を軽んじた藤尾への憎しみからではないか)……。
それぞれの欠点は問題にもされず、ただ藤尾だけが1人、裁きを下され死んでしまう。面子を潰してプライドも踏みにじるような酷い騙し討ちのような形で。「女の癖に生意気なんだよ」「身の程を弁えろ」という声が聞こえてくるようである。生き残った連中が不幸になりますように。
また、ラストの宗近から小野への説教も極めて凡庸であった。「真面目になれ」とは一体何なのか。そんな説教で人が変わるならこの世の中苦労はしないし、説教如きで変わることのない人間のどうしようもなさや複雑さ、ひねくれぶりを描くのが小説であり、あの程度の説教で小野がさっさと反省して物語が店じまいに入ってしまう辺りがなんとも拙速だった。

結末には大いに不満が残るものの、しかしこの先何度も読み返したい名作だと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年3月12日
読了日 : 2023年3月12日
本棚登録日 : 2023年3月12日

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