京都ぎらい (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2015年9月11日発売)
3.08
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本棚登録 : 2030
感想 : 293

NHK BSプレミアムで毎週『英雄たちの選択』を観ていますが、時折ゲストとして出演される井上章一さん。映像で拝見する通り、なかなか一筋縄ではいかない(誉め言葉)御仁と読み終えて感じました笑。

自虐と皮肉、蔑みと憧れと羨み等々混在する文章。
それらの境界線が紙一重で、背中合わせの妙。
人間の気持ちは難しい、それがわかります。

本作では「京都」が元来「洛中」を指し、「洛外」は「京都」と同義ではないと、再三説かれます。
「京都出身」は「京都府」或いは「洛中」と2つの意味があるのは驚きでした。

歴史背景は京都とは異なりますが、首都圏にも住む場所のヒエラルキーが存在し、変えられない出自や階層が否が応でも炙り出されるのが居住地だと思っています。

が、最近では「マンションすごろく」のような超都心のタワマンを売って買っての繰り返しで、庶民がおおよそ住むところとは私たち世代では考えられないようなところにも若い人たちは臆することなく住み始めている現実を感じています。

本文45頁にあるように
『近代化は社会階層の平準化をおしすすめた。下層とみなされた人々を、あしざまに難じるふるまいも、社会は許さなくなっている』なるほど。

さらに
『だが、人間のなかには、自分が優位に立ち、劣位の誰かを見下そうとする情熱もある。これを全面的にふうじこめるのは、むずかしい。だから、局面によっては、それが外へあふれだすことも、みとめられるようになる。比較的さしさわりがなさそうだと目された項目に関しては、歯止めがかけられない。』

身体障碍に関しては言及しづらいですが、頭髪の薄さはテレビや身近な生活でもおおっぴらな揶揄、お笑いの種として寛容されています。

46頁より
『軽いとされる差別に突破口を見つけ、そこからあふれ出す。』

「差別はいけない」という至上課題はありながら、人間はなかなか離れることのできない現実を噛みしめました。

井上さんが度々引用される「洛中」の人との屈辱的な体験は想像するに、出自のような変えられないものを頭ごなしに否定されるかなり重いご経験だったと思います。

ご自身がおっしゃるように自身の「崩壊感覚体験」であり、それが思考や言動の屈折を与え、一方で広がりや奥行にもつながる機会にもなったとの考察。
それが建築学で博士課程途中まで進みながら、文転された要因の一つであると、初めて知りました。

意外にも徳川幕府の当初3代将軍が京都の歴史ある仏閣の建築文化を重用し守ったという史実。
それ以降の将軍幕府は関心が及ばなかったことも驚きでした。

他には、多くの仏閣への入場料有料化を巡る行政と宗教団体の関係の難しさ。

南北朝に遡る日本特有の「怨霊思想」が明治政府以降は蔑ろにされているという見解。
どれもとても興味深く読みました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年1月14日
読了日 : 2022年1月13日
本棚登録日 : 2022年1月12日

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