夢うつつと幻の境目のない、理屈では説明のつかない出来事がキーになる作品でした。
参考文献一覧を見て納得。
木内さんは本作の舞台となる根津遊郭や当時の妓楼や芸妓はもちろん三遊亭圓朝さんや落語に関しても十二分に下調べをして書き上げられた1冊でした。
2011年直木賞受賞作品。
円朝の「牡丹燈篭」は今でも背筋が続々するような怖さを覚えたのだけれど、本作は少しばかり私の苦手なファンタジー要素が後半含まれて、木内さんの作品に私が期待しているイメージとは少しずれがありました。
しかし武家の次男として家族に軽んじられぞんざいに扱われてきた主人公定九郎が抱える寂しさや虚しさ。
それに加え御一新により天変地異が起こり、身分制度が撤廃されたことで武士という身分の矜持も生業も失った男の絶望感。
光を完全に断たれた男の諦めの中の怒りが抑えた筆致から伝わり心を打たれました。
自分に折り合いをつけられないときには、今でいう「無敵の人」とでも言いましょうか。
他者を貶めることにより、自分の立ち位置を浮上させるという最も醜い選択肢に手を伸ばしてしまう人間の弱さを見せつけられた気がします。
「自分が自分である」ためには矜持とともに、他者から必要とされる人間関係が心に灯をともし、光となることを感じた1冊でした。
根津遊郭は詳細を知らなかったのでとても興味を持ちました。成り立ちや撤廃された背景、或いは当時の女性たちの立場など、さすが木内さんの作品だと感じました。
アカデミアの近くになぜの疑問。当時日本中から集まった優秀な書生さんたちはやっぱり近づいてしまったのね。
- 感想投稿日 : 2023年10月22日
- 読了日 : 2023年10月21日
- 本棚登録日 : 2023年10月14日
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