流転の海 第5部 花の回廊 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2009年12月24日発売)
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本棚登録 : 942
感想 : 68
5

周囲を圧倒する力と進取の気性に溢れて前進してきた熊吾。少々の失敗や様々な抵抗があってもものともせず、豊かさを享受していたのは過去。第5部の本作は「貧民窟」が舞台となる。貧困、差別、反社会、虐待、放置子、不健康、不健全。どの言葉でそれを充分に言い当てられるのか、戦後の在日朝鮮・韓国人家族が集まる迷路のような「蘭月ビル」で繰り広げられる暴力の描写や、そこに住まう人々の幸薄い生活ぶりに度々胸が塞ぎ、読むことが辛くなった。
新たな事業を探し大阪に戻った熊吾家族は、光熱費も払えず交通費すら惜しむ日々。夫婦で苦杯をなめながら、息子伸仁だけは豊かに育てたい気持ちは私も親だからよくわかる。そしてか弱い存在と思い込んできた伸仁が、予想外にも蘭月ビルの住人達と馴染みを見せ、学校でもしたたかさを見せ始める展開に今後が気になる。

関西圏は私の生活から縁遠いので地名からイメージが沸きにくくて、それが残念。戦後の南北朝鮮問題や、在日という敏感なテーマもこの作品で垣間見ることが出来て、まだまだ自分が知らないことは多いのだと首肯。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年1月30日
読了日 : 2019年1月29日
本棚登録日 : 2019年1月29日

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