笑い三年、泣き三月。

著者 :
  • 文藝春秋 (2011年9月16日発売)
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感想 : 75
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戦後まもない浅草六区のエンタメ界隈のあれやこれや。戦争に翻弄され尽くした人々が何を見て、感じて、折り合いをつけながら日々を生き長らえたのか。

時に涙、時に笑い。心の機微を掬い取った木内さんの美しい言葉に心を過去に馳せ、立ち止まり、そしてページを捲り…。本当にいい作品に出逢うことが出来た。

住まい、衣服、食料すべてに充足がない時期に人はどう振舞ったのであろうか。

「お国の為の戦争」と信じて疑わなかったイデオロギーが青天の霹靂のごとく一変したことを庶民はどうとらえ、呑み込んだのか。

生と死が紙一重の時代に、親しい人や家族を失い、たまたま生き残ってしまった人の罪悪感はいかばかりか。そしてどうやって光を見出し、前に進むことが出来るのか。

戦時中娯楽から遮断されていた人々は、映画・漫才・歌・踊り等エンタメの萌芽をどのように伸ばしていったのか。

ちょうどNHKの朝ドラで「ブギウギ」が戦時中の苦悩のシーン放映中。笠置シズ子さんの『東京ブギウギ』が木内さんの本作の舞台のBGMで登場する。

登場人物たちは本当に魅力的。誰もが何か欠けている。それぞれ疑心暗鬼になりつつも、互いに関わり時間を経て、次第に自分自身を問うきっかけをさりげなく差し出してくれる。

木内さんの含蓄に富んだ時代小説が本当に心地よい。時代を超えて人間とは? 生きるとは?といった深いところに流れる事柄を正義や正答の押し付けなくさらりと描ききる。

巻末の参考文献が示すよう丁寧に調べたうえで、実在の地名や人名等も織り込みながら作品が呈される。
装丁も挿画も内容にぴったり。

困難な時代に共に生きた、血の繋がりのない、不完全でうだつがあがらなくて、ある意味頑固で、理不尽な目にも遭い、不運のくじも引っ張ってしまった人たちの辛くて、甘くて、苦くて、酸っぱくて、素敵な物語でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年12月4日
読了日 : 2023年12月3日
本棚登録日 : 2023年11月30日

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