不思議な既視感。不思議な既読感。
初めてなのに見たことがある灰色の湿原、初めて読んだのに理瀬の同室者の名前を知っている。先に「三月は深き紅の淵を」の回転木馬を読んだからというのが単純な理由ですが同じ本を二度読みしたわけでもないのにも関わらず面白い経験ができたと思います。先にこちらを読んでいたら、「三月」がダイジェスト版のように感じられたかもしれませんし、それはそれでと思いますが、「三月」が先だと、この作品も「三月」の章の一つにも見えてしまうのが面白いところ。いずれにしても予習が終わっているのでじっくりこの独特なファンタジー世界に浸っていけたのでこれはこれでとても良かったです。
「三月」から入るのは「あり」です。
それにしてもここは日本なのだろうかと思えるような不思議な学園世界が描かれます。その中で留学生のヨハンの存在が逆にここが日本であることを暗示させます。いつもの如く恩田さんらしい面白い表現がヨハンの言葉を通して出てきました。「日本語って視覚的にゴージャスな感じがしていいですよね。漢字は贅沢な絵みたいだし、ひらがなは無邪気で色っぽい」こんな見方初めてでとても新鮮でした。ただ個人的にはここにカタカナを忘れてはいけないと思います。世界のあらゆる言語をカタカナは音楽を奏でるように表記することができて、結果として日本語は世界のあらゆる言語を包含できてしまうからです。これはとてもゴージャスです。
話はそれましたが、作品は後半にかけて一気に展開します。理瀬にキャラ変が発生!また、特に前半部分で極めてゆっくりとじっくりとこの不思議な作品世界に没入させてもらえたのに、後半になっていかにも恩田さんらしく作品は読者を振り落とそうとしているかのように急に疾走を始めます。振り落とされないぞと必死にしがみついても結局は最後に振り落とされてしまう。でも、その眼の前には爽やかに余韻が広がっていた。
「麦の海に沈む果実」これぞ恩田さんの真骨頂とも言うべき素晴らしい作品だと思いました。
- 感想投稿日 : 2019年12月15日
- 読了日 : 2019年12月15日
- 本棚登録日 : 2019年12月12日
みんなの感想をみる