名前探しの放課後(下) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2010年9月15日発売)
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感想 : 732
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『今すぐここで、「ぼくのメジャースプーン」を読め
そうしなければ、お前はもう二度と辻村深月さんの作品を楽しめなくなる』

辻村さんの作品群は読む順番がとても大切です。この作品を読み終えてそのことを強く実感するとともに、もし貴方がまだこの作品を読んでいないなら冒頭のぼくの条件ゲームの提示を読み返してみてください。

上巻のこれぞ辻村さんの描く学園ものどっぷりという世界観から、下巻では学校を離れた場所を中心にして物語は展開します。でも大切なのは自殺するとされる同級生、その行為を止めること。いつかたちの懸命な努力は続きます。そんな中ふと不安な表情を見せる あすな。『止められるのかな 私たちは本当に』、それに対して天木の言葉『できないと思う奴には、多分無理だ』あすなの負けず嫌いの性格を知った上での辛辣な激励が彼女を鼓舞します。思えば、上巻冒頭の登場時から坂崎あすなもずいぶんと成長したように思います。あるべき自分たちの姿を探す放課後、この作品ではそんな部分もよく描かれていたと思います。そして、物語は大きく動き、上巻からは予想も出来なかったまさかの結末が待っていました。えっ?

オールスターキャスト。この作品を読み終えて真っ先に思い浮かんだ言葉がこれでした。辞書によると『映画・ 演劇で、人気俳優が総出演すること』とあります。この言葉そのまんまな作品、物凄く贅沢な作品。読む順番を守った人には、なんて幸せな時間を過ごせたのだろうかと感慨でいっぱいになると思います。

そしてそもそもの『名前探しの放課後』という作品名。てっきりこの作品の主人公たちが自殺するとされる同級生の名前探しをするのだと上巻では思っていましたが、まさか読者の自分がしていたことを言われていたとは…。

一方で、振り返ってみて確かに読む順番を守った貴方へのプレゼント的要素が大きい作品だったとは思いますが、この作品の全体ページ数からするとそれはほんの一部分に過ぎないのも事実です。他のページの大半は高校生の彼らの友情・愛情が育まれていく過程が優しく描かれていました。

人生で一番輝く時代・瞬間に偶然にもこの場所で出会った彼らがお互いのことを思い、思いやり、そしてお互いがもっと輝けるように助け合っていく、励まし合っていく。一緒に歩いていく。そう、放課後に一緒に輝く相手を探す物語、「名前探しの放課後」。そんな彼らの物語を3ヶ月分だけ切り取って見せてもらったのがこの作品。それがこの作品の一番の魅力だと思います。そういう意味でもこの作品単体としてもとても楽しめる作品だったと思います。幸せな読後感、ありがとうございました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 辻村深月さん
感想投稿日 : 2020年2月24日
読了日 : 2020年2月23日
本棚登録日 : 2020年2月24日

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