Q&A (幻冬舎文庫 お 7-8)

著者 :
  • 幻冬舎 (2007年4月1日発売)
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それでは、これからあなたに幾つかの質問をします。ここで話したことが外に出ることはありません。正直に、最後まで誠意を持って答えることを誓っていただけますか?
『はい。誓います。』
まず、あなたのお名前と読書歴、一番好きな作家さんを教えてください。
『「さてさて」です。読書を始めて約半年、恩田陸さんから読み始めて、最近好きな作家さんがどんどん増えています。』
あなたは、半年前からブクログに大量に感想を書いていますが、よくそんなに時間がありますね?
『はい、睡眠時間がどんどん削られていっています。毎日ただただ眠いです。』
そんな状態で翌日の仕事には影響しないんですか?
『この前、上司に別室に呼ばれて、最近ぼーっとしているんじゃないか、しっかりしろと叱られました。』
そこまでして、読書は楽しいのでしょうか。
『うおおおっ、という作品に出会うと眠さも吹き飛ぶような気がします。』
そうですか。ところで、今日は、「Q & A」という作品を読んだそうですが、どんな作品でしたか?
『12人の老若男女に順に質問と回答を繰り返して、どんどん真実に迫っていくという凝った作りの作品でした。』
なるほど。まるで、このレビューみたいですね。
『はい、ずっとこういう形式でレビューを書いてみたかったんです。』
それで、どんなストーリーですか?
『舞台は、旭が岡という街のスーパーマーケット・Mで、有毒ガスが発生して、負傷者が多数発生したそうなんです。』
もう少し具体的に教えていただけますか?
『ええ。まず、ショッピングセンターで毒ガスが撒かれたらしいんです。』
毒ガスが撒かれた?それは物騒な話ですね。
『物騒すぎますね。それで、建物の中では、人々が逆流し始めたんだそうです。辺りが有害物質に汚染されているのではないか、もしかしてここにいてはいけないのではないか。恐怖は伝染しますから、誰かが走り始めるとみんなが走り始める。そのうち、車を残して、逃げ出す人が現れました。映画の場面みたいだったそうなんです。』
凄い人数だったでしょうね。
『ええ。二時過ぎ頃、店内には一フロア平均で五、六百人からの客がいたそうです。少なく見積もってもざっと四千人近くが建物の中にいたそうです。』
亡くなった方もいるのでしょうか。
『最終的に死者六十九人、負傷者百十六人にまで膨れ上がったんだそうです。』
それは、とんでもない事故ですね。
『ええ。ただね、事故なのか、事件なのか、それすらちっともわからないようなんです。何が原因で混乱に陥ったのかも分からない。』
なるほど。
『でもね、もっと気になることがあるんですよ。』
もっと、とはどういうことでしょうか?そう言われるととても気になりますね。
『いえね。消防士が言うには、どこをどう捜しても、あの時のMの店内には、火災はおろか、何かのガスの発生した痕跡、もしくは何かの事故が起きたあとは全くなかった。言い換えれば、彼らが死ぬべき原因はどこにも見つからなかったと言ってるらしいんですよ。』
それは、まさしくミステリーですね。
『そう思うでしょう。でも、そう思って読んだ方は必ず結末に失望して☆一つをつけられるんですよ。』
この作品は、ミステリーじゃないんですか?
『ええ。全否定はしませんが、これは恩田さんの作品なんです。』
どういう意味ですか?
『話を膨らませるだけ膨らませおいて、結末で読者を突き放すということです。』
はあ?
『恩田さんの作品は、読書の過程を楽しむものだということです。』
なんだか、おっしゃっていることがよく分からないんですが?
『この「Q & A」の中で恩田さんは次のように書かれています。「事実と呼ばれているものだって、嘘をつく。事実はいっぱいあるってことを認識するしかない。人の目の数だけ事実はある」。わかりますか?』
つまり、結末は読者それぞれが考えろということですか?
『そうです。読者の数だけ結末があるなんて素晴らしいじゃないですか。そう思いませんか?いやあ、とっても面白かったですよ。』
なんだか、とても評価されていらっしゃいますね。他の人にも読むのを薦めますか?
『もちろんです。こんな風に質問と回答の繰り返しだけで、最後まで飽きさせないって、凄いことだと思いますよ。』
ところで、ここだけの話にしますから、結末をちょっと教えてくださいよ。
『ネタバレと二度漬けは禁止ですからあ。』
いやいや、串カツの話ちゃいますからあ。
『同じようなもんでっしゃろ。』
なんで関西弁になってんねん?
『先言うたん、あんたやん。』
このレビュー、結構長くなってきてるんですから、脱線しないでくださいよ。
『どの口が言うてんねん。』
では、最後にもう一つだけ聞かせてください。今回、「Q & A」の書き方を真似してレビューを書かれましたが書いてみてどうでしたか?
『いやあ、ただただ恩田さんの才能に感服しましたよ。真似しても書けるもんじゃないって思いました。恩田さんにはビールの呑み比べでもとても勝てそうにないし、あらゆる意味で完敗ですよ。凄い人だ、恩田さんって。』
まあ、そんなに肩を落とさないでください。
『冗談ですよ。恩田さんの作品もこれで40冊目になりました。完読したらサインをもらいに出かけようと思います。ハハハハハ。』
はあ。もっときちんとレビューを締めてくださいよ。これじゃあ、ここまで読んでくれた方に申し訳ないでしょう?
『そうですね。この作品は、質問に回答する老若男女それぞれについて、我々が期待するそのキャラクターの個性を巧みにずらすことで、不思議なギャップを生み出していました。そして、スーパーマーケット・Mで発生した事象について多彩な視点からそれを上手く描き出し、作品冒頭からは全く予想もつかないまさかの結末に向けて非常に練り上げられた作品づくりがなされていたと思いました。恩田さんの作品は、結末がどうこうではなくて、その雰囲気感に浸って読書の過程を楽しむのが魅力だと思っています。この作品では、12人の老若男女それぞれに垣間見える個性、そしてその回答から少しずつ真実へと近付いていく過程、そしてそれらが織りなす巧みな連鎖を存分に味わわせていただけたと思います。そう、これはミステリーではありません。そう、これはハッキリした結末を期待してはいけません。このことさえ理解すれば、とても面白く、とても楽しい読書の時間を過ごすことができます。これは、そういう作品だと思いました。』
なるほど。よくわかりました。本日はどうもありがとうございました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 恩田陸さん
感想投稿日 : 2020年4月10日
読了日 : 2020年4月9日
本棚登録日 : 2020年4月10日

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コメント 2件

miomsさんのコメント
2021/05/03

とても面白いレビューでした!
読みたくなりましたが、「結末を期待してはいけない」ということで読みたい気持ちが若干しぼみました笑
が、読むと思います。ありがとうございました。

さてさてさんのコメント
2021/05/03

miomsさん、こんにちは。
構成がQ&A形式というとても面白い作品でした。思わずレビューも合わせてみるとこうなりました。恩田さんの作品は結末というより、作品のふんいきを楽しむものが多いと思いますので、この作品もその視点から読めばとても面白いと思います。そもそもQ&Aで展開する小説というだけで他にはない経験ができるかと思います。

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