図書館の神様 (ちくま文庫 せ 11-1)

著者 :
  • 筑摩書房 (2009年7月8日発売)
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- 神様っていつやってくるんだろう?
 〈0〉章から始まる物語。主人公・早川清(キヨ)のこれまでの生い立ちが駆け足で語られます。そして、続く〈1〉章では、唐突に高等学校の国語の講師として着任した清の4月が語られます。駆け足から、ゆったりとした歩みへ、そして、清に再び転機が訪れます。

- 神様ってどこにいるんだろう?
清は文芸部の顧問となりますが、部員は部長一人、でも『文学を通して自分を見つめ、表現し、自分を育てる。 』という活動方針の元、二人だけの学校の図書館を舞台にした文芸部の一年がスタートします。

- 神様にはどうやったら会えるんだろう?
弟、不倫相手そして文芸部のたった一人の部員、三人の男性との関係が淡々と描かれていきます。高等学校時代の苦い記憶と不倫生活をズルズル引きずる清、何事にもひねくれた考え方しか出来ない自分に気づいていても変えられない、教員採用試験にも前向きになれない日々。全てが投げやりになり、どうやったら再び前を向くことができるのか、そんな考えさえできなくなっている清。

- 神様って誰なんだろう?
『教師というのは不自由な仕事だ。誰とも会いたくない時でも、たくさんの人間と接しないといけない。』とても面白い表現だと思います。国語の講師らしい文章表現だと思う一方で、こんな感じ方をしていて教師に向いているのかという二面性も感じさせる絶妙な表現だとも思いました。その一方で文芸部のただ一人の部員・垣内は『雨って、昔自分が流した涙かもしれない。心が弱くなった時に、その流しておいた涙が、僕達を慰めるために、雨になって僕達を濡らしているんだよ』とノートに記して行く。なんだかベッタベタだけどこちらも垣内らしい。学校の図書館を舞台に二人の文芸部の活動が続きます。

- 神様って何故現れたんだろう?
やる気を見出せなかった当初の心持ちを捨て、生徒が関心を持つような授業の工夫を考え出す清。誰でも小中高と、単純に担任だけでも12人もの先生と深く関わることになります。貴方は何人の名前を覚えているでしょうか?先生とは貴方にとってどんな存在だったのでしょうか?『教師は特別な存在でもないし、友達でも何でもない。ただの通過点に過ぎないんだなって。それでいいんだと思う。それがいいんだと思う。』と考える清。『あれ、これって青春?』『どうやらそのようですね』と垣内と語りあう清。すっかり前を向いた清。

- 神様って何なんだろう?
そんな教師としての一年の中で清の中に、周囲の人を、人の気持ちを受け止めていく力が芽生えて行きます。苦い過去の記憶ときちんと対峙し、自分の中で芽生えつつある夢に向けて、まずはひねくれた考え方を捨て一人の人間として再生していく、何かが彼女を変え、何かが彼女の中で生まれ、何かが彼女の中で変わっていく瞬間、再び前を向いた早川清の物語が始まる。

あっさり、さっぱりそしてどこかまったりとした作品。うっかりすると見逃してしまいそうな、気づけないような存在、図書館の神様。読み終えてすぐに気づけなかったその意味にふと気づくことができました。じんわりとしたあたたかさが伝わってくる、そんな作品でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 瀬尾まいこさん
感想投稿日 : 2020年2月29日
読了日 : 2020年2月28日
本棚登録日 : 2020年2月29日

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