とにかくファンタジーとしてもミステリーとしても完成度が高かった。とても読みやすく一気読みできる。心地よい文章はさすがの一言。
主人公の(こころ)は友人とのトラブルから不登校になる。ひょんなことから鏡の世界へと誘われる。
ここまでに描かれる思春期の心の揺れが秀逸。すっかり忘れていた中学生の自分に出会えた。みんなと同じでないといけないという同調圧力、仲間から外されないよう浮かないようにするなど独特の空気感の再現がすごい。よくこんなこと覚えているなと思った。過ぎてみれば中学生活は素晴らしいものだったかもしれない。しかし一番悩み多き日々でもあったことを思い出した。
公立の学校では、いろいろな性格や学力レベルの人間が集まっていてそれらが喧嘩したり力を合わせたりする空間がダイナミックだ。高校、大学では学力にそって入学者が輪切りにされているから、中学校という特別な場所は異様に存在感がある。
(こころ)はそんな中で相性の悪い友人に悩まされる。「どこにいってもあんなやつはいる。」と諦めぎみに放つ言葉があるのだが、それは誰しもが経験することだろうと思う。一生を送る上での基礎をここで学んでいたとしか思えない。中学時代の心はいつも不安定だ。
鏡の世界では(こころ)は6人の仲間と出会う。誰もがなにか抱えているがとてもいい子たちだ。誰がいつ登場しても混乱なく読める。それだけ個々のキャラクターが確立されている。それぞれの抱えているものが明らかになるなかでダイナミックに物語が展開していく。最後には全てが繋がる。それは素敵な時間を私に与えてくれた。
この本を読んでいるとき、いつかの自分に、今ならなんて言うか考えていた。今ならきっと「世の中の大抵のことはなんとかなるんだよ。大丈夫だよ。」「当たり前のことを当たり前にしていたら自然と友だちはできるんだよ。無理やりがんばらなくてもいいよ。」って言うかもしれない。今度は自分がそんな声かけをしていけたらいいなと思う。ファンタジー物語だけれど、常に自分に置き換えられるリアリティーがあった。
最後の読後感のよさは言葉にならない。いい作品に触れるってこんなことなのだと改めて思う。
- 感想投稿日 : 2024年2月15日
- 読了日 : 2024年2月15日
- 本棚登録日 : 2024年2月4日
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