出発点―1979~1996

著者 :
  • 徳間書店 (1996年7月31日発売)
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本棚登録 : 852
感想 : 60
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宮﨑駿の企画書・演出覚書・エッセイ・公演・対談等90本を収録。
テーマごとに分かれていますが、時間軸も元々バラバラですので、気になるところから読み進めても大丈夫です。

漫画版「風の谷のナウシカ」が好きで、なぜこんな漫画が描けるのだろうと、関連の本をいくつか読んでみましたが、これ一冊で良かったくらい内容は充実しています。

しかしながら、これを読んでナウシカが理解できるかと言うと決してそうではありません。
誰も理解できないから魅力があるのだと思いました。
宮﨑駿という人は、よく言われるように矛盾を抱えたまま物を書く人ですし、自分の無意識から掬い上げてイメージを膨らます人なので、本人にもわかっていないことが多いからだと思います。
とりあえず描いてみて、それを常に疑いつつあとでその意味に気付くということを繰り返しています。
本人も言っていますが、どうしても「こうなっちゃう」のです。
それは作者の自然や社会や戦争に対する膨大な知識も、幼少期に形成された感覚も、全てごちゃ混ぜになって一つの塊として生み出そうとしているからではないかと思いました。
それだけの膨大なアイデアや思想を一本のストーリーに練り上げる創造力と画力は想像を絶します。
連載といっても何度も休載していますし、1ページでもいいから続きを描いてくれという雑誌側の配慮があったことも奇跡的に良かったのだと思います。
風の谷のナウシカは読む人によって、SFともとれますし、戦記物とも、環境問題とも、大河ドラマとも、旅行記とも、親子の話ともとることができます。

そのせいもあってか、まとまりがないとも思われる宮﨑作品ですが、その根本には、残酷な現実世界の中で逞しく生きてほしいという願いがあります。
その願いが、ご都合主義のラストにはせず、問題は簡単には解決しないけど、その中で助け合って良いも悪いも共有して生きていこうとする主人公たちに表れているのだと思います。

しかしながら宮﨑駿のアニメ論が展開される一方で、この本の内容は宮﨑駿が自身の制作について語ることが殆どを占めていますので、側からみた宮﨑駿は、これまた全く違います。
このことについては、押井守の「誰も語らなかったジブリを語ろう」を読むとまた違った視点から宮崎駿の制作をみることができるのでお勧めします。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年8月31日
読了日 : 2021年8月31日
本棚登録日 : 2021年8月31日

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