重力ピエロ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2006年6月28日発売)
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本棚登録 : 55425
感想 : 4257
5

結構考えさせられる作品だった。
逆をいうと考えないとこの家族の状況や成り立ちが入ってこない。
春はもちろん、父親、母親、和泉の三人も過去のレイプ事件が大きな節目でありながらの家族としての人生の選択なのだろう。

形としてはレイプ事件を中心にみれば被害者の母親、受け入れた父親、生まれてきた春、兄弟として暮らしていく和泉という構成になる。
ストーリーに沿ったとしても、もっと重い話になりかねない。
またもっと暗くて陰湿な話になってもおかしくない構成だと感じた。

それを愉快にポップに知的にしている父母の存在はとてつもなくデカイと感じた。
母亡き展開の中、父親は和泉と春を我が子として、仲間として、同士として、家族として、一人の人間としてきちんと向き合っている。素晴らしく素敵だと感じた。

抱える苦悩は例え家族だろうと共有できない所も絶対にあるからこそ、父親も和泉も理解し、受け入れ、思いやった。
それは春に対し一人の人間としての尊重だろう。

親兄弟がそういう事ができるのは人間的に大人で、他者に対して秀でた感性と感覚があるからだろうと感じる。
非暴力が強さならば、それは優しさも弱さも色んな感情を含めた行動としての強さなのだろうと感じる。

最後、父親の葬儀の中、兄弟は火葬される父親の煙を見つめながら「イケ!イケ!」と叫んでいる。
この家族。
父母は嬉しいだろう、この二人が息子でよかったと思っているだろう。息子達も父母が自分達に与えてくれた出生からの数々に本当によかったと思っているだろう。
本当に素敵だな、そう感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年4月14日
読了日 : 2023年4月14日
本棚登録日 : 2023年3月27日

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