「戦争画」は意外にも幅広く、銃後(じゅうご。本書で改めてわかったけど、この言葉は兵士として出征した男性に代わって、国を守る人のことを指す。大人だけではなく子供も入る)の人々の比較的穏やかそうに見える様子や、占領地の風景画のようなもの、また横山大観は富士山をよく描いたけど、これも戦中は(大観自身意識して描いたが)”亜細亜の盟主”としての意味をもたせていた。ちなみに同じ画が戦後、題名を変更して”美しい富士”の絵に成り変わっている……。
でもやはり戦闘場面が戦争画のいちばんのイメージだ。カバー画に採用されている藤田嗣治の絵。藤田はかわいらしい少女の絵しか知らなかったので、まず驚いた。初めて見たときは戦っている兵士たちがカーキ色の塊に見えた。だんだん目が慣れてきて、今まさに銃剣でのどを一突きしようとする兵士の狂気の目、なりふり構わず腕を振り回す苦しみとも哀しみともまた笑いともつかない表情……。しかし自分が”怖さ”を感じたのは、細部までも異常に描きこまれた技法だった。
藤田だけじゃなく、他の画家も戦争画に今までになかった”可能性”を見出していたのは間違いないと思う。いまのように戦争が良くないこととか悪だとか、そういう風な考えはなかった時代、特に太平洋戦争の頃に人々の中にあった「大義」。日本人の”共通言語”のようなこれに、画家たちも自らの活路を見いだしていたんじゃないか?それだけ当時の美術界は”危機的”は状況にあったという。
岩倉具視の玄孫である画家の岩倉具方は妻への手紙に「何シロ、マタトナイ画材ナノデ、百枚描イテモ二百枚描イテモアキルコトハアリマセン。」といっている。
- 感想投稿日 : 2022年7月30日
- 読了日 : 2022年7月30日
- 本棚登録日 : 2022年6月2日
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